ご注意を〜
この話はどこまでもシリアスです。
しかもダークです。
アレンがかなり暗いです。思いつめてます。
「それでもいい、むしろ何でも読んでやるぜ!」という勇気に満ち溢れている方は、スクロールで
どうぞ。
埋葬してしまいたい。
引き裂いて、息の根を止めて、跡形もなく、こんな気持ちなんて。
でないと苦しくて死んでしまいそうなんだ。
ねぇお願い、 た す け て 。
● 秘め燃ゆる想い、恋心 ●
殺してしまえば、いいのだろうか。
アレンはぼんやりと考えた。
霧のかかったような頭で、思考する。
これは夢だ。
とてもリアルで感覚もあるけれど、現実ではありえない。
夢だ。悪夢だ。
早く目を覚ましたい。
けれど二度と帰りたくはないとも思っている。
矛盾した心でアレンはじっと目の前を見つめていた。
そこには金髪の少女が立っていた。
二人の足元には彼女が抱えていたであろう書類がぶちまけられている。
ああ本当にリアルだな。
まるで仕事中の彼女を、無理やり捕まえているみたいだ。
アレンとは向かい合っていた。
そこは見慣れた黒の教団の廊下だった。
長く長く続くその空間には、人気がない。
いや、いらない。
これは夢なのだから、他の人間は必要なかった。
世界は ふ た り きりだった。
彼女の金の瞳に映っているのはアレンただひとりだけ。
は廊下の壁に背中を預けていた。
否、押し付けられていた。
彼女の白い首を捕らえているのは、アレンの赤い左手だった。
それが彼女の全てを塞ぎ、その華奢な体を壁に押し付けているのだ。
殺してしまえば、いいのだろうか。
アレンはもう一度同じことを考えた。
頭にあるのはそれだけだった。
少女の細い首を掴んでゆるく圧迫しながら、思考する。
もう少し力を入れれば、彼女は死ぬだろう。いとも簡単に。
抵抗はされないと思った。
夢の中であるし、そうでなければもこんなに無反応に急所を捕まれていたりはしないはずだ。
隔絶された世界でふたりは見つめあう。
殺してしまえば、開放される?
に捕まってしまった、自分の心は。
それを認めたくはなかった。
けれど否定もできなかった。
力が足りなかったのだ。
拒絶し、排除する力が。
怖 い 、と思う。
こんなに心の奥の奥まで侵食されて、他に何も考えられないようにされて。
わかっているのに。
彼女が自分の想いに気づくことも、応えてくれることもないのだと。
わかって、いる の に 。
だから、殺せばいい?
「殺さないの?」
綺麗な声が空気を震わせた。
がアレンを見ていた。
首を捕まれて、体を壁に押し付けられて、命を握られたまま。
「私を殺さないの?アレン」
彼女の手が持ち上げられて、その首に絡みつくアレンの赤い指先に触れた。
アレンは震えた。
どうしてかなんて知らなかった。
「私を殺したいんでしょう?」
「 ち が う 」
声に出してみて初めてわかった。
そう、を殺したいわけじゃない。
殺したいのは自分だ。
自分の心。
に惹かれて、どうしようもなく疼く気持ち。
「どうして抵抗しないんですか」
それを知った途端アレンは泣いてしまいそうになった。
は抵抗しないのだ。
アレンがこの心を殺そうとしても、それを止めようとはしないのだ。
そんなもの、なくてもいいと、思っているから。
「抵抗してください」
それは無理な願いなのだと、アレンは理解していた。
そんなことはありえない。
彼女はアレンの気持ちを引きとめはしない。
たまらなくなって、アレンは指先に力を込めた。
赤い指が吸い付くようにの喉を締め上げた。
このまま力を込めればすべては終わる。
現実の彼女に気づかれることも、告げることもなく、この想いは息の根を止める。
手が震えた。
左目から、涙がこぼれた。
ああやっぱり、僕は君の愛にはなれないのかな。
「抵抗して、」
それは懇願だった。
こんなひどい自分勝手、よく口にできたものだと思う。
それでもの首を絞めるアレンの手は、母に縋りつく子供のそれと同じなのだ。
ただ彼女にこの想いの存在を、否定されたくなかったのだ。
けれど同時にわかっていた。
こんな好きは歪んでいる。
汚れた純粋。
「抵抗してよ……、」
消えそうな声でもう一度だけそう言うと、は微笑んだ。
そして手を伸ばした。
アレンに向けて。
「ねぇ」
の手は空を掴む。
アレンが首を掴んで壁に押し付けているから、それをうまく伸ばせないのだ。
「届かないよ」
「………………」
「そんな遠くじゃ届かない」
宙を漂う白い手に導かれるようにして、アレンは一歩、彼女に身を寄せた。
の掌がアレンの頬に触れる。
指先が左目に刻まれた呪いの傷跡を撫でる。
「まだ、遠い」
そしては、その華奢な腕をアレンの首にまわすと、一気に引き寄せた。
抵抗はしなかったから、アレンの体は彼女に寄り添う形になった。
覆いかぶさるようにして、ふたつの影がひとつになる。
目の前で金の瞳が瞬く。
「私のこと、遠いと思う?アレン」
吐息が唇に触れた。
今、何よりも彼女の傍にいるのはアレンだった。
けれど本当は遠い。
は誰にも、その心を与えはしない。
「遠いよ。君は、すごく」
「じゃあお互い様だね」
「お互い様……?」
「私から見れば、アレンはすごく遠いもの」
首を掴むアレンの左手に、の右手が重なる。
「どうしてそんなに遠くに立っているの」
そして重ねた手に力を込めた。
自身の力でその首を絞めながら、は囁く。
苦しそうに吐息をついて。
「触れられない距離ではないのに、どうして足を止めるの?手をゆるめるの?……殺したいものはわかっているのに」
殺したいの は ?
君を、僕を。
を想うこの感情を。
「殺すのならボロボロにして。他に何も考えられないくらい、出来る限りの痛みで死なせて。そうじゃないと苦しいだけだよ」
そう、苦しいのは自分だ。
アレンの心だ。
「私はちゃんとここにいるから」
赤い左手を包む小さな手と、大きなぬくもり。
殺せばいい。
何もかもを叩き伏せて、排除して、否定してしまえばいい。
こんな、誰をも苦しめるだけの感情。
抱えたまま傍にいるのは辛すぎた。
だから、殺せ ば。
「ここにいるよ、アレン」
あ あ うるさい、そんな優しい声で囁かないで。
目の前に花色の唇があった。
ギリギリで触れないそれに、焼け焦げるような感情を抱く。
苛立ちと衝動で頭が真っ白になった。
もう何も考えられない。
残ったのは本能だけだった。
アレンはにキスをした。
唇を食んだ。
そのまま飲み込んでしまいたかった。
魂まで貪り尽くして。
そうしたらこの胸に閉じ込めて、もう二度と出しはしないのに。
殺 せ る も の か 、と思った。
殺せるわけがない。
殺してしまえるのならば、最初からこんなに苦しんだりはしない。
ただ怖かったのだ。
いつかやってくる、君が未来と呼ぶ僕の哀しみ。
時が来れば跡形も残さずに消えてしまう彼女を引きとめる術がなくて、それがどうしようもなく怖かったのだ。
また、置いていかれてしまう。
その恐怖に体が竦んで、だからこんな気持ちなくなってしまえばいい。
すべて殺してしまえばと、そんなこと出来るはずもないのに僕は。
「僕の愛した人は、みんな僕を置いていくんだ」
請うようにの唇を奪いながら、その合間にアレンは囁いた。
どんなに傍にいて欲しいと望んでも、誰も応えてはくれなかった。
実の両親も、マナも、師匠でさえも。
誰ひとり、アレンの隣に寄り添ってはくれなかった。
もう、嫌だ。苦しくて死んでしまいそうだ。
いっそ殺してほしかった。
何よりも求める彼女の手で、息の根を止めてほしかった。
「今度は君が僕を置いていくんだろう、だから」
だから、好きだなんて、認めたくなかったんだ。
もう誰も愛したくはないと思っていた。
ずっとずっと、アクマだけを見つめて生きていこうと決めていた。
なのにどうして君は僕を捕らえたんだ。
こんな、どうしようもないくらいに。
ああでも、もう認めるしかないんだ。
涙が頬を伝った。
どんなに否定したってこの気持ちは殺せない。
はまだ消えてはいない。
目の前にいるんだ。
だったらどんなに抵抗したって、逃げられはしないのだ。
「ごめん、」
すべてを奪うように口付けをして、アレンはを見つめた。
金色の瞳が、アレンを映していた。
僕はきっと君を傷つける。
焼けつくような感情で、ただひたすらに求めてしまう。
途方もない願いだけれど、それでも思ってしまったんだ。
いつか消えてしまうというのなら、その前に。
この世界から、僕 が 君 を さらっていくよ。
「好きだよ」
アレンはを抱き寄せた。
夢の中で、それでも彼女は抱きしめ返してはくれなかった。
わかっている。
今ここでこんなことを言っても、何の意味もない。
どうにもならない。
けれど言わずにはいられなかった。
必死に押し隠していた気持ちが、心の底からあふれ出してくる。
「好きだ……」
涙がの肩を濡らした。
彼女は力を抜いて、アレンにされるがままになっていた。
がこんな風に静かに腕の中におさまっていることは、今までになかった。
ああ本当に、どうして君は。
「すき」
“いつかは”という絶望と、“それでも”という渇望が、アレンの心を渦巻いていた。
一瞬の殺意と、永遠の愛惜でを抱きしめる。
ふたりきりの世界で、震えながらアレンは思った。
光に向かって、ただひたすらに。
どうかこの瞬間にも孤独に生きようとする君の心に、せめて一欠けらでもいい僕の傷跡があるように願うよ。
(どうしてどうしてどうして、厭わしくて 愛 お し い こんなに も )
(あいしている なんて言えないけれど 今はまだ。でも いつか)
ねぇ聞いて。
だいすきだよ。
暗いにも ほ ど が あ る ・ ・ ・ !(大汗)
病んでる話で申し訳ないです。でもこういう雰囲気を書くのは好きです。
いくらアレンの夢の中でもヒロインの首を絞めるシーンはいかがなものかとも思ったので、ご注意を書かせていただきました。
ヒロインを好きだと認めたくない、アレンの心の葛藤なのですが。
誰も愛したくないのに、どんなに否定しても否定しきれない気持ちにさせるヒロインが厭わしかった。
けれどどうしても愛おしかった、という感じです。
それにしても「好き」とか「愛してる」とか云々を書くのが、ものすごく恥ずかしいんですけど!(爆)
仮にも夢小説サイトなのに……。がんばります。
|