だって仕方がないじゃない。
素直じゃないんだから。意地っ張りなんだから。

それでもあなたに伝えたいことがあったんだから。






● St. Valentine’s Day 3 ●






「嫌ですってば!ちょっと、ラビ!!」


アレンは自分を引っ張って厨房へと向かうラビに強く訴えた。
声は自覚できるくらいにうろたえている。
だって今、と会ってどうしろと言うのだ。
考えただけで全身が熱くなった。
ラビに掴まれている手まで赤い。
それは、彼に強く握られているからだろうか。
それだけじゃないとアレンにはわかっていた。
だから言う。


「離してくださいよ!!」
「ヤダ!そんなのお断りさ!!」
「……っ、ラビ!!」
「あー!ユウ!!」


ラビはアレンを無視して片手をあげた。
見てみると前方に神田の姿がある。
彼はこちらを振り返り、全力疾走しているアレン達を発見して、顔をしかめた。


「何してるんだ、お前ら」
「実は今から告白ターイム!なんさ」
「は?」


意味がわからずますます眉をひそめる神田に、ラビが早口に説明をする。


の好きな奴ってアレンだったんさ!だから今から告白を受けに……」
「ちょ、ラビ!だから僕は……っ」
「何だと……?」


慌てて口を挟んだアレンを遮ったのは、神田の恐ろしく低い声だった。
ちょうどその時、彼の隣にラビが到着し、通過する。
しかし神田はその場に置いていかれることなく、ラビと並んで駆け出した。


「今のは本当か」
「ああ、間違いねぇさ!」
「いやいや何で神田までついてくるんですか!!」


アレンは後ろから怒鳴ったが、神田は振り返ることもなくラビとの会話を続けている。


「チッ……、面倒なことになったな」
「そんなこと言ったって、一緒に来るんだろ?やっぱユウパパとしては、娘の恋の行方が気になるわけさー」
「ふざけんな、俺はちょうど食堂に行くところだったんだよ。後から行ってあのバカ女が暴れてたら迷惑だ」
「ププッ、照れてるさ?」
「……………………斬るぞ」


超低音でそう呻って、神田は『六幻』に手をかけた。
その鋭い眼差しにラビは悲鳴をあげる。
それでも二人は足を止めないから、アレンは叫んだ。


「いいかげんにしてくださいよ二人とも!僕を無視して話を進めないでください!!」
「あぁ?テメェの意見なんざ知るか」
「そうそう!アレンは大人しくついて来ればいいんさ!!」
「って、話の中心人物って僕ですよね!?何ですかこの流されてる感!!」

「「うるせぇ、いいから黙ってろ!!!」」


強く訴えると、遠慮容赦ない怒声をあびせられた。
二人の目は何だか異常に据わっていて、かなり怖い。
彼らの激しい剣幕に、思わずアレンは黙りこむ。


その瞬間、爆音が轟いた。


廊下の先にある食堂の扉が炸裂し、中から白と黒の煙が噴出してくる。
同時に悲鳴をあげながら大勢の人々がなだれ出てきた。
ラビと神田はようやく足を止め、アレンもそれに従う。


「な、何ですか……?この騒ぎは」


立ち込める爆煙と煤、そして妙な異臭にアレンは顔をしかめた。
神田は不愉快そうにそれを手で払い、ラビはアイターとばかりに頭を押さえる。


「あのバカ女……。また派手にやらかしやがって」
「相変わらずすっげぇ数の見学者さ。これだけのギャラリー背負ってよくやるぜホント……」


二人の嫌そうな呟きから推測するに、どうやらこの騒ぎはが引き起こしたものらしい。(いや、もとより
あの変人以外には考えられないのだが)
そして周りに集まった人々は、の料理の腕とチョコレートの行方が気になる見学者たちのようだ。
彼らは廊下へと避難した後も、めげずに破壊された扉から食堂の中を覗き込んでいた。
すると唐突に煙を突き破って、そこから小柄な影が転がり出てきた。
その人物は盛大にむせながら床にへたりこんだ。


「げ、っほ、げほげほげほ!!あー失敗した……、まさかあんなところで爆発するとはなぁ」
!!」


顔を煤で真っ黒にした彼女を、ラビが大声で呼んだ。
アレンはびくりと身を強張らせたが、ラビは無視してその腕を引っ張った。
そのまま人ごみを掻き分け、神田と共にに近づく。


「いつも通り無様な格好だな」
「あーあ、こんなに汚しちまって……。ダイジョブか?」


神田がの腕を引っ張って立たせ、その汚れた頬をラビが自分の袖口で拭う。
はしばらくゲホゲホしていたが、何とか呼吸を整えて言った。


「うん、大丈夫。ありがと」


そして彼女は辺りを見渡して、頭を下げた。
料理をしていたため後頭部でまとめていた金髪が、ぴょんと跳ねる。


「お騒がせしてごめんなさい。でもチョコレートは無事完成しました!」
「え、マジで!?」


ラビが驚きの声をあげ、周囲からは何故か拍手が巻き起こる。
その中でむせび泣いているのは料理人たちだろう。
ようやく彼らの聖域がの魔の手から開放されたのだ。
おそらく厨房はその原型を留めていないだろうが。
は神田とラビを見上げて、ふふんと胸を張った。


「バッチリよ!ほらっ」


楽しそうな笑顔と共に、は後ろ手に持っていたものをこちらへと突き出した。
それは巨大なハートだった。
ピンクと赤のラッピングが施され、白いリボンが可愛らしく結ばれている。
見る限りは今までで一番まともなチョコレートだったが、過去に激しいトラウマのある神田とラビは顔を
蒼白にした。


「テメェ……、懲りずに本気で作りやがって……!」
「でか……っ、しかも見た目がいいだけに何だか底知れない恐怖があるさ……!」
「やー、もうなかなか難しくってさぁ。たいぶ手伝ってもらっちゃった」


はちょっとだけ不覚そうに頬を掻いて、それから微笑んだ。


「でも何とか完成できたのはジェリー料理長と、試作品を味見してくれた皆のおかげだよ。本当に
ありがとう!」


そう言った彼女の表情からは素直に感謝の気持ちが伝わってきて、神田とラビは顔を見合わせた。
それから何となくから視線を逸らして呟く。


「無理やり食わせておいて、よく言うぜ」
「べっにー、そんなの親友として当たり前のことだし」
「ぷ。二人とも照れてるの?かわいいなぁマイフレンド!」


あははと笑い出したの頭に、当然の如く二人の張り手が叩きこまれる。
は痛みに若干涙目になりながら訊いた。


「ねね、それでアレン知らない?」
「アレンならここにいるぜ」


に名前を呼ばれてびくりとしたアレンの、掴んだままだった腕を引っ張ってラビが答えた。
どうやら小柄なには、長身の神田とラビの背後にいたアレンが見えていなかったらしい。
身長的に考えてもそれは不思議ではないのだが、さらにアレン自身が何とか隠れようとがんばって
いたのだから無理もなかった。


「ちょっと、ラビ……!」
「な?オレって準備いいだろ?理想の親友だろ?」


戸惑うアレンの背を突き出しながら、ラビは自分の手柄をアピールした。
しかしは答えることなく目を見張っている。


「おい、


不審に思った神田が呼ぶと、彼女はハッと瞬いた。
それからわたわたと手を動かす。
適当に結い上げていた金髪を下ろし、撫で付ける。
汚れきったエプロンを脱ごうとしたが、うまくいかずに四苦八苦していた。


「ちょ、待って、アレンがいるよ!まだ心の準備とかいろいろ……!!」


彼女はしばらく一人でジタバタしていたが、諦めたのか開き直ったのか、アレンに向き直った。


「えーっと。ちょっといいかな、アレン」


そう言うの声はいつもより少しだけ低くて、その緊張が嫌というほど伝わってきた。
アレンが思わず黙り込むと、はその沈黙が落ち着かないのか、煤で汚れている自分の顔や
髪に触れる。
頬は薔薇色に染まり、瞳はうっすらと潤んでいた。
その目は何だか赤くなっているようにも見えた。
よく考えれば、神田やラビに食べさせた試作品はいつ作ったのだろう。
もしかして徹夜でもしたのだろうか。
そんなことを混乱している頭で考えていると、後ろからラビにどつかれた。
小声で叱咤される。


「何か言えよ!あんな女の子みたいなを無視するつもりか!?」


アレンは何だか呆然としたまま、を見つめた。
確かには女の子みたいだった。
いや、いつも女の子なのだが。
しかも見た目だけはとびっきり上等な女の子なのだが。
中身が全然伴っていないのがのはずなのに、どうしてこんな。
こんな。


アレンは顔面の温度が急上昇するのを感じた。
有り得ない。
今、ちょっと有り得ないことを思ってしまった。
だってこんな未確認生物を。
毎日罵り合って、殴り合って、喧嘩ばかりしている相手を。


かわいい、だなんて。


(あぁもうしっかりしろ、僕!!)


心の中で自分自身を怒鳴りつけて、アレンは口を開いた。


「な、何ですか?」
「え、えーっと。その、あのね?」


はしばらく瞳を伏せていたが、ふいにアレンを見上げた。
あまりにもまっすぐに見つめられて、アレンの心臓が跳ね上がる。
血流の音が耳の奥で大きく響いていた。


「あんたが入団してもうずいぶん経つじゃない」
「…………そうですね」
「最初はこんな、チョコを渡そうだなんて全然考えてなかったんだけど。その、あんたと接するうちに気持ちが強く
なっていったっていうか」
「…………そうですか」
「きっとこれも何かと縁だと、私は思うんだ」
「…………そうですね」
「やっぱりバレンタインだし、勇気を出してみようかな、って」
「…………そうですか」
「め、迷惑だったら全然断ってくれてもいいんだけど」
「…………そうですね。っていや、そんな!!」


何だか思考が働かなくて同じような返事ばかり繰り返していたアレンは、そこで思わず大きな声を出した。
それを聞いて周囲の人々がざわめく。
もとより興味津々でこちらを見ていた見学者達だ。
それは当然の反応だった。
しかしアレンはそれに構うより先に、ひどく慌ててに言った。


「そんな、迷惑ってことはないです!絶対に!!」
「本当に?」


ぱぁっと輝いたの顔を見て、アレンは思わず一歩後退した。
あぁ駄目だ。やっぱり……。


「何で今日に限ってそんなに可愛いんですか……っ」
「え」
「何でもないです!!!」


低く呻いた言葉はどうやらには聞こえなかったようだ。
アレンは咄嗟にそれをなかったことにする。
本当にしっかりしろ、僕。
しかし、それにしても今日のは何だ。
これがバレンタインマジックというものか。
女の子は恋をすると可愛くなるとかそんな感じなのか。
これが?この未確認生物までもが?


「聖バレンチヌス様って偉大だなぁ……」


思わず遠い目で感動したように呟くアレンを、は怪訝な顔で見上げた。


「アレン?なに急に壊れ出したの?だいじょうぶ?」
「うん……。たぶん大丈夫です。信じてください」
「わ、わかった。信じる。じゃあハイこれ」


釈然としない表情のまま、はアレンに例のどでかいハートを手渡した。
あぁすごい、ちゃんとチョコの匂いがする。
妙なところで感動したアレンに、は少し不安そうに訊いた。


「一般論に従ってチョコレートにしちゃったけど、甘いの大丈夫だよね?」
「え……?大丈夫、ですけど」


答えつつもアレンは違和感を覚え始めていた。
どうして甘いものが大丈夫かなんて、は聞くのだろう。
アレンがそれらを大好物としていることぐらい、彼女はよく知っているのに。
眉をひそめたアレンの目の前で、は微笑んだ。


「そっか。よかったー、もしかしたらお酒とか煙草のほうがいいんじゃないかって、チョコを作ってから思っちゃって」
「………………………………」


おおーっと、これは何だか嫌な予感がしてきたぞ。
アレンはそう思って微妙な笑顔を浮かべた。
たぶん頬が盛大に引きつっている。
そして顔色が若干紫っぽくなっているはずだ。
周囲の人々も何となくその違和感を感じ取って、ざわめき出した。
背後にいるラビなんて、神田に必死になって訴えている。


「や、ちょっと待つさ。いやいやそれは有り得ねぇって。いくらでもここまで期待させといてそんなことは、
なぁユウ!!」
「知るか」
「いやーーーーーーーーーーーーーーー!!これで違うなんてことになったらオレはアレンに殺される!!!」


ええ、それはもう全力で始末させてもらいますけど。
恐ろしいことを腹の底で考えて、アレンは笑顔でを見つめた。
はにこりと、それはもう可愛らしく微笑み返したのだった。


「じゃあよろしく、アレン」


そして、明るくこう言い放った。




「そのチョコレート、ちゃんとクロス元帥に届けてね!!」




ビシリ。


そんな音が聞こえた。
激しい勢いで、その場の空気が凍りついた。
これ以上ないほどの瞬間凍結だ。
笑顔のまま硬直したアレンに、同じく笑顔のが言う。


「だってクロス元帥ってば4年近くも音信不通なんだもの。ずっと気持ちを伝えたいな、って思ってたのに
出来なくって」
「…………………………」
「そこに弟子のアレンが入団してきたんだよ!?今年はこのチャンスを逃す手はないよね!!」
「………………………………………」
「でも実際断られると思ってたんだ。あんたって何だか私に冷たいときがあるから、頼んでも届けてくれ
ないかなー、って妙に緊張しちゃった」
「………………………………………………」
「でもいらない心配だったみたい。無理言ってごめんね」


そうしては恋する乙女の、その普段からは想像もつかないほど可愛らしい様子で、アレンに告げた
のだった。



「本当にありがとう、アレン!」



そこには感謝と親愛が込められていて、その純粋な言葉に、アレンは自分の中で何かが爆発するのを感じた。
意地っ張りで素直じゃないくせに、こういうときのお礼としては、きちんとそれを言えるのがなのだ。
しかし普通は喜ぶべきその友情を受けて、アレンは思わず、




バキィッ!!!




手にしていたチョコレートを真っ二つに叩き折ってしまった。


「ああああああああああああああああああああ!!!」


が絶叫した。
言葉では表現できない激しい感情のため力が入りすぎたアレンの手によって、そのハートは見事に真ん中から
両断されてしまったのだ。


「ちょ、待っ、わた、私のチョコ……!クロス元帥への気持ちがーーーーーーーー!!!」
「あーすみません、何だか手に妙な力が入っちゃって」


答えるアレンの声は何だか変に冷静で、は半泣きのまま彼を見上げた。
そしてびくりと後退した。


アレンが世にも恐ろしい笑顔を浮かべていたからだ。


笑みの形に引きつった唇に、異常なまでに据わった目。
顔色は青いのも赤いのも通り越して、何だか真っ白だった。
その上半分は妙に翳っており、きつい光を宿した双眸が爛々と輝いている。
それは恐怖などというものではなかった。
もっともっと恐ろしい、別の何かが具現化した姿だった。


周囲の人々が一斉に後ずさった。
波が引くように、噴出するドス黒いオーラの傍から非難する。
背後の神田ですら冷や汗をかき、ラビは彼にしがみついてむせび泣いていた。


「ア、 アレンさん……?」
「何ですか」


は震える声で、恐る恐るアレンに訊いた。


「な、何か怒ってる……?」
「いいえ。何も」
「いや、だって……」
「聞こえませんでしたか」


アレンはを見つめて、完璧な笑顔を浮かべた。


「何も、怒ってなんて、いませんよ」
「そ、そうですねゴメンナサイ」


文節ごとに区切りながら強く言うアレンに、は身を縮こませて謝った。
何だか本気で、今までにないくらい、アレンが怖い。
いや、もう怖いなんてレベルを余裕で超えまくった何かだ。
じわりと涙をにじませたに、アレンは言う。


「こっちこそごめんなさい。君の作ったチョコレートを真っ二つにしてしまって」
「い、いえ。ご丁寧にどうも……」
「師匠への気持ちがたくさん詰まった大切な物ですからね。あの人、今どこにいるかわかりませんけど、何とか
届けられるようにがんばってみます」
「う、うん。ありがとう……」
「それじゃ」
「あ、ちょっと待って……」
「ああ、それと」


言うだけ言って身を翻したアレンをは引きとめようとしたが、それより先に彼が振り返った。
そして表面上だけ穏やかな、けれど実質は絶対零度の声音で告げた。


「しばらく僕に近づかないでください」
「で、でも私まだアレンに用事が……」
「もし、うっかり話しかけでもしたら」


必死の勇気で呼び止めるに、アレンは微笑んだ。



「…………………………何をするかわかりませんよ?」



その声に、その言葉に、その表情に。
そこにいた全員が、ものすごい勢いで後退した。
そろって顔を蒼白にし、ガタガタと震えている。
アレンはそれだけで人を射殺せるんじゃないかと思うくらいの鋭い瞳でをにらみつけてから、顔を
前に戻して歩き出した。
それに合わせて人ごみがモーセの十戒のように割れる。
アレンは凶々しいオーラを振りまきながら、その場を後にした。


そして廊下をみっつ折れたところで、


「オマエ、今すぐアレンに謝って来い!!!」


と、遠く背後から、泣き叫ぶラビの声が聞こえてきたのだった。




















よく考えればおかしな話だとアレンは思った。
どうして自分がこんなにも振り回されて、かき乱されなければならないんだろう。
相手は別に特別でもなんでもない。
ただの同僚だ。
偶然同じ宿命のもとに産まれついて、戦場を共にしているだけの間柄。
そのうえ向こうはこちらのことをケンカ相手、よくても友人ぐらいにしか思っていないというのに。
どうして。


(どうしてこんな気持ちにならなきゃいけないんだよ……っ)


心の中で怒鳴ると、思わず手元が狂った。
テープは決められた長さではないところで切断され、アレンの手に貼り付く。
苛立ちにハサミを放り出して、アレンはソファーに深く身を沈めた。


アレンは科学班から借りてきたハサミとテープで、自分が真っ二つにしてしまったのチョコレートを
なんとか繋ごうと努力していた。
しかし理由もわからずざわめく心を抱えていては、その作業がうまくいくはずもなかった。


何だか悔しくて、腹立たしくて、どうしようもなかった。
少しだけ泣きたい気もした。
でもそんなのはたぶん嘘だ。
そんなこと、認めてたまるか。


こんなにも大きく僕の心をが占めているだなんて、認めてたまるものか。


「くそ……っ」
「指でも切ったの?」


思わず悪態をつくと、突然声をかけられた。
聞きなれたそれに、アレンは心底驚く。
がばりと身を起こして振り返ると、ソファーの背の後ろにが立っていた。
しまった、顔を合わせてしまった。
クロスへの気持ちがこもったチョコを自室に持ち込むのが嫌で、談話室なんかで作業をしていたのが
悪かったらしい。
は何だか気まずそうにこちらを見ていた。


「チョコ、繋ごうとしてくれてるんでしょ?ハサミで指でも切ったの?」


彼女はそう言ってこちらへと手を伸ばしたが、それが届く前にアレンは前に向き直った。


「そんなヘマはしていません」


答えた自分の声は予想通り低くて、不機嫌を極めたものだった。
は伸ばしていた手を所在無さ気にさ迷わせて、結局引っ込めた。


「そ、そっか」
「何をしに来たんです」


アレンは再びハサミを手に取りながら口を開いた。


「しばらく近づくなって言ったでしょう」
「言われたけどさ」
「……………………話しかけたら、何をするかわからないとも言ったはずですよ」
「そうだけど。でも、ねぇ」


の声には何だか少しだけ、必死さのようなものが混じっていた。


「なに怒ってるの?」
「………………怒ってませんよ」
「嘘つき」
「嘘じゃありません」
「誤魔化せるとでも思ってる?」
「……………………。何をされてもいいんですか?」
「いいよ」


あまりにもキッパリとそう言われたので、アレンは思わず目を見張った。
背後での声が続く。


「それでもいいから、ちょっとだけ話を聞いて」


そう言って、彼女はアレンに背を向けてソファーの背面にもたれかかった。
そしてぴょんと跳ねて、その上に軽く腰掛けた。


「私はね、クロス元帥が好き」


唐突に何を言い出したのかとアレンは思った。
本当に今度こそハサミで指を切ってしまうところだった。
それでもの声は静かで、冗談を言っているようには聞こえなかったから、口を閉じたままでいた。


「ずっと昔から、そう想ってた。私とクロス元帥が知り合ったころはね、まだ教団が“私”という異質な存在の
扱いに困っていて、“”はみんなに敬遠されていたの」


その声を聞きながら、アレンは思い出していた。
”という存在。
過去を全て隠蔽して、別の人物になることを強制された、異質の人間。
本名を名乗ることも、出生を語ることも禁じられた、独りの少女。
それが、だった。


「子供の“私”にはそれが辛かったし、淋しかった。だから受け入れてくれる存在が大切だった。コムイ室長や、
ブックマンのじーさんや、グローリア先生が。そしてクロス元帥もそんな大切な人のひとりだったんだ」


はそこで少しだけ微笑んだようだった。


「まぁあの人は私の生い立ちとか、本当の名前とか、気にするような性格じゃなかっただけなんだけどね。それ
でも嬉しかったことにかわりはなくて、その気持ちは今も私の中に確かに存在してる」


そこではソファーの背をぽんっと軽く足で蹴った。
アレンはハッとして振り返った。
そして上半身だけをまわしてこちらを見ている、の金の瞳と出会った。


「だから“好き”。会えない時間が長かったせいか、そう想うようになった。でもそれは他の女の子たちが言う
“好き”とは違うんだって。それはただの“憧れ”なんだって、ラビに言われたよ」
「………………………………」
「それでも今年は弟子のアレンがいるからさ、乙女らしくあのころのお礼をバレンタインでしてみようかなって
思ったんだ。でも」


は言いながら身軽にソファーの背の上から降りた。


「やっぱりいいや。アレンを怒らせてまでお礼したって、そんなのは何か違うよね」


そうしてソファーを迂回して、彼女はテーブルの上に手を伸ばした。
その唇は、いつものように微笑んでいた。


「変なこと頼んでごめん。ありがとう」


言いながらテープでツギハギにされたチョコレートを回収する。
しかし次の瞬間、の動きはピタリと止まっていた。
いや正確には止められていた。
それはハートの反対側を、アレンがガッシリと掴んでいたからだった。


「……………………」
「……………………」


しばらく無言のにらみ合いが展開された。
は何とかチョコレートを自分のほうに引き寄せようと力を込めたが、腕力でアレンに敵うはずがなかった。
は思わずアレンをねめつけた。


「ちょっと」
「何ですか」
「離して」
「嫌です」
「離せ」
「嫌だ」
「はーなーせー!」
「いーやーだー!」


両足を踏ん張って引っ張り出したの手を容赦なく払いのけて、アレンは自分のほうにチョコレートを
取り戻した。
そして黙々と、それを繋ぎ合わせる作業に戻った。
はしばらくそれを理解できないというマヌケな顔で眺めていたが、すぐに眉を吊り上げた。


「何なのアレンは!」
「うるさいです。作業中です。邪魔しないでください」
「あーもう!相変わらずわけのわからない奴だなぁ!!」
「騒がないでくださいよ、うっとうしい。話はそれだけですか?だったら帰ってください。気が散ります」
「わぁどうしようコイツ、すっごくむかつくよ!?」


は怒ったように言って、ソファーの上、アレンの隣に飛び乗った。
そして再びチョコレートを取り戻そうと手を伸ばしたが、それはことごとくアレンにかわされた。
頭を押さえつけられて、手の届かない高みにチョコレートを掲げ上げられて、は怒鳴った。


「返せこのー!」
「嫌ですよ。これはもう僕が預かったんです。これを渡す相手は君じゃなくて、師匠なんです」
「だからっ、それはもういいってば!」
「君がよくても僕は嫌です。一度頼まれたことを投げ出すなんて、僕は絶対にしませんよ」
「…………………………」
「届けてあげるって言ったでしょう。僕はそれに頷いたんです。だから」


その時ぐらりと二人はよろめいた。
必死に手を伸ばしていたがバランスを崩し、勢いよくアレンの胸へとぶつかったのだ。
アレンは咄嗟にの体を抱え込んで、そのまま二人して、ソファーに倒れこんだ。
手すりに後ろ頭をしたたか打ち付けたが、アレンは文句を言わずに言葉を続けた。


「だから、君の気持ちは僕が届けてあげる」


胸の上でがぴくりと身じろぎをした。
そしてそこに乗っかったまま、顔をあげてこちらを見つめてきた。
アレンはそれを見つめ返して、少しだけ苦笑した。


「でも、あの人本当にどこにいるかわからないから、あまり期待はしないでくださいね」
「……………………そこは普通、絶対届けてあげる、って言うところじゃない?」
「無理言わないでください。相手はあのクロス師匠ですよ?」
「それもそうか」
「でしょう?」


アレンは自分の上に乗っかったの背を、ぽんぽんと撫でた。


「頼りなくってごめんね」
「……ううん。いいよ」


そこでは微笑んだ。
鼻がくっつきそうなくらい近くで、アレンの目の前で笑顔を浮かべた。



「すっごく嬉しい。ありがとう!」



そして両腕を伸ばしてアレンの首に抱きついた。
アレンはそれを受けて、口元をゆるめた。
何だか怒ったり落ち込んだりと、すごく忙しいバレンタインだったけれど、これはこれで悪くなかったかな、
などと考える。
だってよく考えたら、がここまで自分に好意的だったことなんてなかった気がするのだ。
抱きつかれて、“ありがとう”だなんて、そんな友達みたいなこと、初めてされたのだ。
だから、きっと悪くなんてなかった。
けれどその思考を遮るようにして、唐突にが身を起こした。


「それで、何であんたはあんなに怒ってたの?」
「…………………………」


せっかくいい感じでまとまろうとしていたのに、もう本当になんて人だろう。
いらないところばっかり突っ込んできて。
アレンの顔から急激に表情が消えた。
冷ややかな声で告げる。


「だから、怒ってません」
「うっそだー!だってすごかったじゃない。今までにないくらいの暗黒オーラを出しちゃってさ」
「気のせいですよそれは。とうとう目まで悪くなったんですね、可哀想に」
「いやいや、誤魔化してないで教えてよ。チョコを届けてくれるってことは、それが嫌で怒ってたんじゃない
よね?じゃあどうして?」
「………………………」


思わず黙り込んだアレンの体を、は軽く叩いたり、揺すったりしはじめた。


「ねってば。アレン」
「………………………」
「おーいアレン!アレンくーん」
「…………………………………………………………」
「アレン、アレンってば!」
「あーもう!うるさいうるさい、怒ってないって言ってるでしょう!!」


アレンは全力で怒鳴って、自分の上にいたを容赦なく振り落とした。
彼女の軽い体は簡単に吹き飛ばされて、どさりと床の上に転がる。
可愛くない悲鳴と、痛みを堪える呻き声が聞こえていたが、アレンはそれを全て無視した。
何だか赤くなった顔で、チョコレートの修復に戻る。
するとソファーの脇から怒鳴り声が飛んできた。


「何なの、だから何でそんなに怒ってるの!?」
「うるさいって言ったでしょう。もういいから、どっか行ってください」
「ひ、ひどっ!ちょっとアレン……」



これ以上突っ込まれたら、アレンは平静でいられる自信がなかった。
だから強く、そして低く言う。


「いい加減にしないと、本気でブチかましますよ……?」


その恐ろしいオーラには引きつった悲鳴をあげた。
ギロリとにらんでやると、彼女はものすごい勢いで後ずさりアレンの視界から消えた。
ソファーの背の後ろから、半泣きの声がする。


「も、もう本当に何なのアレンは……っ、どうしてそうも怖いのかな、あんたに何があったのか、私は本気で
心配だよ……!」
「それはどうも。でも僕のことより、自分の身を案じた方がいいと思いますよ」
「わ、わかった。じゃあ今すぐ愉快な気分にさせてあげるから、ちょっとこっち向いて」
「嫌です」


背後でが立ち上がって何やらゴソゴソしている気配がしたが、アレンはキッパリそう言い捨てた。


「いいから超特急でこの場から去ってください」


さもないと、どうして自分が怒っていたかなんて、そんな絶対に言いたくないことを口にさせられてしまう
かもしれない。
それは死んでもごめんなので、アレンはを振り返らなかった。
その様子には言う。


「ね、すぐだから。こっち向いてよ」
「嫌ですってば。どうせまた馬鹿なことをするつもりでしょう」
「違うよ!アレンのその、歪みきった機嫌を治すドッキリだよ」
「ドッキリじゃないですか。絶対に嫌です。お断りです」
「あ、っそ。じゃあ私もう行っちゃうよ?」
「どうぞ、ご自由に」


アレンのそのつれない反応に、はムッとしたようだった。
言葉通りに、背後で踵を返す気配がする。
それから彼女は談話室の出口に向かって数歩進み、それからもう一度アレンを振り返った。


「引き止めるとかないわけ!自分を嬉しくさせようっていう乙女に対して、その態度は冷たすぎじゃない!?」
「それはすみませんね。お望みならもっと冷たくしてあげられますが?」
「…………………………っつ」


は怒りに言葉を詰まらせたようだった。
アレンはようやく諦めたかなと思ったが、さすがは、そんなに甘い奴ではなかった。
数秒息を吸うような沈黙があり、続いて震える声。


「アレンの……」


そして盛大な怒声が響き渡った。



「ばかぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」



それだけならアレンは驚いたりしない。
いつも通りに耳を塞いでやり過ごすだけだ。
しかし今回はそれだけではすまなかった。
怒鳴り声と同時に、アレンの後頭部を何かが直撃したのだ。
が渾身の力で投げつけてきたそれは妙に固く、あまりの衝撃にアレンはソファーに沈没した。
ひどく痛む後ろ頭を震える手で押さえる。


「……っつ、この!何てことするんですか!?」


怒鳴りながらがばりと顔をあげて振り返る。
すると何かが手元に転がり落ちてきた。
どうやらこれがの投げつけてきた凶器らしい。
けれどそれを見て、アレンは目を見張った。


それは箱だった。
白いリボンのかけられた、小さな箱。
そしてそこからは確かにチョコレートの香りがしていた。


思わず言葉を失ったアレンに、は強気に言い放った。


「ふふん!一から十まで誰の手も借りずに作ったさんのお手製のチョコレートよ!言ったでしょ、すぐに
嬉しくてどうしようもなくさせてあげるって!!」
「……………………」
「何を怒ってるのだか知らないけれど、あんたなんてそれでも食べて、おいしさのあまりむせび泣くがいい!!」


そしてもう一度「アレンのバカ!」と言い捨てて、は身を翻した。
漆黒のスカートと金の髪がなびき、足が床を蹴立てて遠ざかっていく。
アレンはそれを無言で見ていた。
何だか思考が働かなかった。
ただ小さな箱を握り締める。


そして次に気がついたときには、ソファーを飛び越えて、背中から思い切りを抱きしめていた。


「うわっ」


勢いよく背後から抱きすくめられて、が悲鳴をあげた。
よろめいたその体をさらに引き寄せたところで、アレンは我に返った。
そして自分の無意識の行動に、目を瞬かせた。


「あ、れ?僕は何をしてるんですか?」
「いや、それ私の台詞だよね!?」


あまりに急なことだったので、の心臓はばくばくいっていた。
それを全身で感じながら、アレンは思う。
本当に僕は何をしているんだ。
自分でも理解できていなかった。
それでも何だかを離すことはできなかった。


「ちょ、っと。アレン、どうしたの?」


が抵抗するように身じろぎをしたので、アレンはますます腕に力を込めた。
目の前で白いうなじと金の髪が光っている。


「……………………どうして」


最初に口をついたのは、疑問だった。
片手で握り締めた小さな箱と、その甘い匂い。


「どうして僕に、チョコをくれるんですか?」


静かに尋ねるとは身を固くした。
見下ろしてみると、何だか耳が真っ赤だった。
アレンは思わずそこに唇を近づける。


「答えてください」
「……っ!」


は何とかもがいて真っ赤な耳を押さえた。
なるほど、いつかラビが言っていたことは本当だったのか。
曰く、“は耳が弱い”。
そこにかかる吐息がくすぐったかったのか、彼女は背中から抱きしめてくるアレンから逃れようとした。


「は、離して!」
「駄目」
「う゛、や、ちょ、やめ……っ」
「本当のことを教えてくれたら、離してあげる」


はこういうとき、いつも掴みどころのない言葉ばかり返してくる。
ふざけて流してしまうことが多いのだ。
けれどこればかりは、アレンはどうしても聞かなければならない。


「どうして僕にチョコをくれるの?」
「………………」
「答えて」


ぎゅっ、と抱きしめる腕に力を込めながらアレンは囁いた。
はしばらく何かに耐えるように沈黙していたが、限界がきたように口を開いた。


「し、仕返し!」
「…………は?」
「違……っ、えーっと、お返し!それだ!」
「お返し……?」
「忘れたとは言わせないからね!クリスマスの……っ」
「ああ……」


言われてアレンは思い出した。
クリスマスの一件を。
けれど同時にあの時のキスのことも思い出してしまって、思わず顔を赤くする。
それを誤魔化すようにアレンは自分のポケットをさぐった。


「これのことですか」


アレンは片手をまわしての目の前にそれを出してやった。
掌の上で輝く、薄紅の石のペンダント。
は頷いた。


「それ。の、お返し」


は何だか居心地が悪そうに、アレンからペンダントを受け取って、言う。


「だって私、覚悟しとけって言ったもの。言ったけど……、何ていうか、その、あんたの欲しいものなんて
わからないし!」
「はぁ」
「同じ年頃の男の子に聞いたんだけど、ラビと神田の意見は参考にならないにもほどがあったのよ!」
「うん、まぁ……そんな気はします」
「だから、食べ物にしようと思って!でも」


は自分の体にまわされたアレンの腕、その手が握っている小さな箱を見つめた。


「ひとりで作ったら何故かそれっぽちしか出来なかったんだよね……」


は己の料理の腕を嘆くかのように、長いため息をついた。
それから少しだけ微笑んで、抱きしめてくるアレンの腕をぽんぽんと叩いた。


「とにかくそーゆーわけ。わかったら離して、それでも食べてよ」


はそう言ったけれど、アレンは答えなかった。
黙り込んだまま、動こうとしない。
背後から抱きしめられているから表情を見ることも出来なくて、は眉をひそめた。


「アレン?どうしたの」
「……………………」
「あ、わかった。私の作ったチョコなんて、不味くてお返しにならないとか思ってるんでしょ?それともこれっぽち
じゃ少ないとか?」
「……………………………」
「わかってるって。もっとちゃんとお返しするから、何が」
「いらない」


アレンは喋り続けるを強く遮った。
そして抱きしめていた腕を緩めた。
はアレンを返り見ようとしたが、それより早く手を引く。
強引に振り向かせて、引き寄せる。
アレンは今度は、真正面からを抱きしめた。
がアレンの肩に顔面をぶつけて悲鳴をあげたが、それでもアレンは力を緩めなかった。
彼女の背に両腕をまわして、強く抱きしめる。


「何もいらない。これだけでいい」
「アレン……?」
「それでも足りないと思うのなら、このまましばらく」


アレンはの輝く金髪に顔を埋めて、笑んだ口元で囁いた。


「しばらくこうしていて」


どうしよう、とアレンは思った。
笑みが止まらない。
嬉しい。
だって“好き”だと想っていたクロスと同じものをもらえたのだ。
そこに込められた意味は違っていても、火傷をして、徹夜をして、必死になって作ってくれたのだ。
それにはこの小さなチョコレートをたったひとりで作ったと言った。
ジェリーの手も借りずに、彼女ひとりで。
どんなに小さくてもいい、それはクロスへのものより嬉しかったのだ。
片づけを手伝うと言ったアレンを止めた、あの時のの顔を思い出す。
今にも怒り出しそうな、泣き出しそうな、変てこな表情。
あれはこのお返しを、そこに込めた感謝を隠したかったのだ。
いつものの、照れ隠しだったのだ。
なんて馬鹿で可愛い人なんだろう。
アレンはそう思って、ますます強くを抱きしめた。
はしばらくぽかんとしていたようだったが、すぐに小さく笑い出した。


「ねぇ、そんなに嬉しかったの?」
「うん」
「本当に食べ物好きなんだね」
「…………それだけじゃないんだけど」
「でもそんなに握り締めると、チョコ溶けちゃうよ」
「それは困る」
「でしょ?」
「だけどもう少し」


このままでいたい、と言おうとして、その時が微かに身じろぎをした。
そして小さく「あ」と言った。
何かを見つけたようなその様子に、アレンはを抱きしめたまま彼女の視線の先、自分の背後を
振り返った。
そして、


「あー……、これはまずいですね」


顔を蒼白にして呟いた。
同じような顔色になったも頷く。


「うん。何だかよくわからないけど、まずそうなのはわかる」


二人の視線の先。
そこには猛烈な怒りオーラが立ちこめていた。


仁王立ちになった神田とラビが、こちらを殺人的な目でにらみつけていたのだ。


それもそのはず、神田はもともとアレンが気に入っておらず、に近づくことを快く思っていない。
ラビはというと、ブチキレたアレンとそれを追いかけていったをさんざん心配して、死にそうになって
いたのだ。
それなのに当の本人達が談話室のど真ん中で恋人同士みたいに抱き合っていたものだから、二人が怒る
のも無理のない話だった。
それをいちはやく理解したアレンは、の手を握った。


、ここにいたら命がないみたいです」
「そうみたいだね。神田なんてもう抜刀してるし」
「はい。そういうわけで」
「うん。そういうわけで」


「「逃げよう!!」」


二人は真っ青になって同時に走り出した。
追いかけてくる怒声と殺気、『一幻』と『火判』を死に物狂いで避けながら、逃走する。
互いの手をしっかりと握り締めて。




アレンとは手を繋いだまま、黒の教団を駆け抜けていった。








  な、長!予想以上に長くなってしまいました。(汗)
  そんなわけで、ヒロインの好きな人はクロス元帥でした。
  メイン連載でも言っていましたが、彼はヒロインの憧れの君です。けっこう本気で尊敬しています。
  機会があれば会わせてあげたいものです。
  それではここまでお付き合いくださってありがとうございました!
  楽しいバレンタインをお過ごしください。