君だけの僕でいられるのなら。






● 愛しさの境界線 1 ●







それは穏やかな日だった。
よく晴れた空に、澄んだ空気。
明るい光の洪水に、人々の表情は自然とほころぶ。


そんな晴れやかな朝、神田は普段どおりに食堂にいた。
いつもの場所に腰掛、いつもの蕎麦を食し、いつもと変わらない日常を過ごしていた。
ただひとついつもと違うことといえば、今日はまだ例のバカ女が自分のところに突撃してきていないということだ。
それは大変奇妙なことである。
思わず周囲を見渡してみたが、あの目立つ金髪はどこにも発見できなかった。
そのかわりに毛嫌いしている白髪の人物を見つけてしまい、神田は舌打ちをした。
アレンは何やら数人の女性に囲まれて、穏やかに談笑しているところだった。
初対面から気に食わない奴だったが、彼がと絡むようになってからはますます気に食わない。
あのバカ女のせいで何かと自分とも関わるようになってしまったことも、不愉快で仕方がないのだ。
神田は苛立たしげにアレンから目を逸らした。


「……チッ」


「うんうん、舌打ちしたい気持ちはよくわかる」
「むしろオレのがそんな気分だってマジで……」


それはあまりに唐突だった。
神田はけっこう真剣に驚いて、身を固くした。
聞こえてきたのは耳になじんだ二つの声。
妙にしみじみした調子の少女のものと、何だかとっても嫌そうな青年のものだった。
そしてそれは、あらぬ方向から神田の耳に届いたのだ。
神田は全身で不穏なものを感じながら、声の出所を見た。


つまり、自分の座っているテーブルの下を覗き込んだ。


「…………………………………………」


「はよっす、神田!」
「おはようさー、ユウ」


目の前に金の瞳と、緑の瞳があった。
顔なじみのそいつらは、器用に膝を折り曲げて、食堂のテーブルの下、その薄暗い空間に並んできちんと収まっていた。
あまりに非常識なその行動に、神田の思考回路はブチ切れた。
人が朝食を食べているテーブルの下で、このバカコンビは何をしているのかと、真っ白な頭で考える。
そして次に湧いてきたのは、紛れもなく怒りだった。
それも誰も文句のつけられないほどの純粋な怒りだ。


「テメェら……っ!」
「しーっ、静かに!」
「こっち来い、ユウ!」


神田は全力で怒鳴ろうとしたが、その前に両足を確保された。
そのまま抵抗する間もなくテーブルの下に引きずり込まれる。
狭い空間でバカ達の仲間入りを果たした神田は、光る瞳で二人を睨みつけた。


「こんなところで何してやがる!」
「安心してよ。別に神田のスカートの中を覗こうとか、そんなハレンチな目的じゃないから」
「当たり前だろうが!」
「うん。私、男のパンツには興味ないもん」
「あったら怖ぇよ!!」
「特にフンドシとか許容範囲外だからね」
「はいてねぇぞ俺は!!!」
「まぁまぁユウ。もそのへんにするさ」


いつも通り元気よく言い合うと神田を止めたのは、ラビだった。
どうどうといさめてくる彼を見やって、神田が言う。


「テメェも相変わらずバカ女と一緒にバカやりやがって」
「違う違う、オレも今回は被害者さ!ユウと同じで朝メシ食ってたらここに引きずり込まれたんだって!!」
「アリ地獄かよ……。いや、地獄か」


神田は嫌そうに呟いて、究極のバカに視線を転じた。


「それでテメェはここで何をしてるんだ」
「ふふん、よくぞ聞いてくれたね!」


問いかけられては顔を輝かせた。
コイツがこういう表情をするときはたぶん恐らく絶対に、間違いなく不愉快極まりないことを言い出すので神田は即座に逃げ出したくなったが、どうやら完璧に遅かった。
そんな様子など気にもかけないでは言う。


「つまり、これは偵察よ」
「は……?」
「息をひそめ、物陰に隠れ、一秒たりとも油断せずに敵を観察する。そのためにここにいるわけ」
「……………………ラビ。通訳しろ」
「え、あれ?私、今わかる言葉で言ったよ?ちゃんと英語だったよ?」
「テメェのほざくことの大半は理解不能なんだよ。いい加減、自分が人類でないことを自覚しろこの未確認生物が」


神田が冷たくそう言うと、は眉を吊り上げた。


「な、何をー!せっかくお馬鹿なユウちゃんでもわかるように、簡潔に言ってあげたのに!」
「何だその腹の立つ気遣いは、誰が馬鹿だ!!」
「だって神田ってば出会った当初まだ英語が読めなくて、女の子からのラブレターを果たし状だと思い込んでたじゃない!そんなお馬鹿さんに言葉云々で文句をつけられたくないのよ!!」
「ば……っ、テメェそれは秘密だと言っただろうが!!」
「ねぇラビ聞いてよ!神田が読めないって言うから、仕方なくそのラブレターを音読してあげた私の苦しみがわかる!?意味もなくコイツに愛の言葉を囁き続けたんだよ、あれは一種の拷問だよ、激しいトラウマだよ!!」
「ふざけんなよ、いいかラビ!俺だって、コイツの声でさんざん好きだのなんだの聞かされたんだぜ!?しかもこれ以上ないくらい不愉快な一本調子で!あれこそ拷問だ、最高のトラウマだ!!」
「あーうん……。なんつーかさ」


と神田にものすごい剣幕で同意を迫られて、ラビは後ろ頭を掻きながら笑った。


「二人とも馬鹿だよな!」
「「……………………」」


次の瞬間、凄まじい威力を持った二つの拳がラビを強襲した。
そのまま声もなく床に沈没。
と神田はさもスッキリとした顔で、屍のようになったラビを放置し、話を戻す。


「それで、偵察……だったか?」
「そう。敵に気づかれないように、その動向を監視しているの」
「だからってこんなところに隠れてるんじゃねぇよ。そもそも敵ってなんだ」
「あれ」


はテーブルの下から少しだけ身を乗り出して、その方向を指差した。
神田がそちらを見ると、そこには白髪の人物がいた。
そしてその周りには数人の女性。
先刻見たときと同じく、親しげに会話を交わしている。


「……っ、くそぅ。何て楽しそうなの、羨ましい!」


が恨めしそうに呟いた。
神田は思わずその横顔を凝視してしまった。
彼女の声に混じっていたものが、“嫉妬”のように聞こえたからだ。
あまりに不似合いで意外なその感情に、何だか硬直してしまう。
そんな神田の背後で、痛みにうめきながらラビが言った。


「まぁ要するに、恋する乙女の可愛い焼きもちってところさ」
「……コイツが?あのモヤシに?」
「そうそう。あんまり仲良く話してるもんだから、いてもたってもいられないんだと」
「……………………」


神田は言葉を失った。
まさかこのバカ女が、あの白髪にそんな感情を抱いているとは。
そういうことに関してはまったくと言っていいほど興味のない神田だが、このときばかりはどうでもいい顔など出来なかった。
たださえは目の離せないような危険人物であるし、何より相手がアレンだということが気に食わない。
神田は忌々しげにアレンを見やると、恐ろしく不機嫌な声を吐き出した。


「チッ……どこまでも腹立たしい奴だな、あのモヤシは」
「ねぇ本当に!」


もアレンを睨みつけて盛大に頷いた。


「アレンのやつめ!腹黒魔王のくせに女の子にモテモテだなんて、許せない!!」


「………………………………」


そっちかよ……!!
という突っ込みは、たぶん入れてはいけないから、神田は口を閉じた。
つまりこのバカが敵と言っているのはアレンで、彼が自分の大好きな女達と楽しそうにしているのが不愉快だということか。


「私だって、女の子達に囲まれたいよー……」
「いつも囲まれてるだろうが……」
「アレンが入団してから、何人もアイツのファンになってるんだもん……」


私だけの女の子達だったのに……っ、と涙ぐむは本当にアホなんだと、神田は思った。


「くだらねぇ……、俺は帰るぞ」
「え、やだ。一緒にこの辛さをかみ締めてよ!」
「ラビがいるだろうが、俺を巻き込むな!!」
「おいおい、オレだけにこんな苦行を押し付ける気か!?」
「苦行とか言った!苦行とか言ったよ、親友なのにひどい!」
「あっ、あっ、ゴメン!ゴメンってオレが悪かったさ、だからその握った拳を引っ込めろー!!」
「ああもうウゼェ!!」


狭いテーブルの下でジタバタ暴れ出したバカコンビに、神田は遠慮なくキレた。


「いつも通りウゼェんだよテメェら!大人しくしろ暴れんな、そしてその手を離せ!!」


団服の裾を掴んでくるとラビの手を振り払おうとしたが、力は意外に強くて、彼らの目論見どおり神田は逃亡し損ねた。
それでももみくちゃになった状態から必死に這い出して、バカ共の文句を却下しつつ、きちんと座らせる。
三人は薄暗い空間で円になった。
そして神田は半眼になって考えた。
の危険具合に頭を痛める。
以前から女好きで口説いてまわり、異常な人気を誇るほどだということは知っていたが、まさかこれほどまでとは。
予想以上にヤバイのは明らかだが、それでも別に危ない趣向というわけではないから、ますますバカとしか言いようがなかった。


「ねー神田、帰らないでよ」


まだ団服を掴んだままのが言ったから、神田は頭痛に眉をしかめながらも顔をあげた。
はぐいぐいとその裾を引っ張りながら言う。


「何か淋しいのでここにいて」
「…………だから、ラビがいるだろうが」
「一人より二人。二人より三人寄れば楽しい!って昔の人もよく言ったでしょ?」
「………………」
「え。まさか神田知らないの?」
「ば……っ、知ってるに決まってんだろ!」
「いや、ないから。そんなおニューな諺ないから」


ラビは冷静に突っ込んだが、何となく口元がゆるんでいた。
ニヤニヤ見つめてくるその視線が不快で、神田は彼から目を逸らし、ついでにの額に一撃食らわせておく。
短い悲鳴が上がったが、無視して問いかけた。


「それで、これからどうする気だ」
「え……。ああ、アレンのこと?」
「オレもそれ疑問なんだけど。偵察はいいとして、そこからは?」
「うん。とりあえずしばらく観察して、どうしてアイツが女の子にモテるのか検証してみたいと思う」


その際もご協力お願いします!と敬礼するに、ラビは呆れた視線を向けた。


「アレンが何でモテるかって……、そりゃあオマエ」


肩をすくめて続ける。


「英国紳士で礼儀正しくて、穏やかな性格、優しい物腰、儚げな雰囲気。加えてあの顔だったらモテないほうがおかしいさ」
「だーからっ、それが納得いかないって言ってるの!」


は憤然と拳を握った。
薄い影の中で、金の瞳が爛々と輝く。


「神田やラビだってモテるけど、それは別にいいんだ。そりゃあちょっとは悔しいけど、人様の趣味に文句なんてつけられないもの。そういう奇特な子も世の中にはいるんだって、納得できる」
「何?オレ達を好きな女の子って奇特なわけ?」


少しばかりひどい言い草にラビは顔を引きつらせたが、はさらりと流した。


「でもアレンは許せない!」
「なんでさ」
「裏表があるからよ!!」


はこれ以上ないほど、堂々とそう言い放った。
怒りに見開かれた金の双眸。
前のめりになって震える体。
は両手をわなわなさせて呻った。


「もうアレンは私の心の闇だよ、アイツと出会ってからというものの苛められ、いたぶられ、罵られる毎日……!」
「いや、それはオマエにも責任があると思うさ」
「普段はにこにこ、常に笑顔の丁寧な態度で皆をうまく騙しているけれど、私の前ではどう!?恐ろしく腹黒で、キレると破壊活動に走り、あげくの果てにはイノセンスまでぶっ放す!!」
「テメェだって同じくらい暴れてるだろうが」
「アレンの正体は毒舌鬼畜の腹黒魔王なんだよ……!!」


なんて恐ろしい……!とは盛大に嘆いた。


「女の子達は騙されてるんだよ、アレンのあの完璧な外ヅラに欺かれてるんだ!乙女の味方としては、そんな卑劣な行為見過ごせない!!」
「………………オマエ、アレンについてそうとう重症なトラウマ抱えてんだな」
「それはもうバッチリね!」


は勢いよく顔を振り上げた。



「とにかく私はアレンがモテるだなんて、絶対に許せないのよ!!」


「へぇ、そうなんですか。それで?許せないからどうするんです?」


「そりゃあアレンの本性をみんなの前で暴いてやるに決ま……って何であんたがここにいるんだよー!!??」



普通に訊かれて答えたは、その言葉の途中で飛び上がった。
それもそのはず、彼女の横に何だか当たり前みたいな顔で、白髪の少年が座っていたからだ。
いつの間にテーブルの下に潜り込んできたのか、普通に円に加わり、当然のように会話に割り込んできたアレンに驚くなというほうが無理だった。
はアレンの笑顔を間近に見て蒼白になった。
口元は笑っているのに、その銀灰色の瞳がまったく笑んでいなかったからだ。
は本能的にテーブルの下から這い出して逃げようとした。
しかし後ろから襟首を掴まれ、ものすごい力で引き戻される。


、どこに行くんですか?こんな薄暗いところで楽しそうに僕の悪口を言っていたくせに。もっとゆっくりしていってくださいよ」
「いや薄暗いってゆーか、一寸先どころじゃなくて今まさに闇ど真ん中!!」
「ああもっと暗いところで話したいんですか?いいですよ、付き合ってあげます。…………………たっぷりと、ね」
「いいいいいいいらない!いらないから、そんなありったけの絶望!!」
「遠慮なんてしないでください。もう二度と日の目を見ることのできない君に、最期くらい本気を出してあげますよ」


アレンはそのまま信じられないような力でを床に引きずり倒した。
悲鳴をあげつつ見上げると、神田とラビが残念そうな表情でこちらを眺めていた。


「ちょ、ちょっと!なに諦めたような顔してるの!?もっと色々あるでしょ、私を助けるとか助けるとか助けるとか!!」
「いや、気にするな。少し感心していただけだ。初めてテメェに尊敬の念を抱いているだけだ」
「うん……、なんつーか、これほどまでに自業自得という言葉を体現した奴はいねぇさ。さすが。ホントすっげぇ」
「おいー、それでも友達かー!」


は叫んだが、アレンは構うことなく腕を掴んできた。
力で組み伏されて、の瞳に涙が浮かぶ。
マズイ、このままでは魔王の手によって地獄の底に引きずりこまれる……!


「あああああアレン!ちょっと落ち着こうよ!」
「落ち着いてますよ。落ち着いてどこから攻撃しようか考えています。やっぱりここは首からもぎ取るのが一般的ですかね」
「そんなデンジャラスな行為のどこが一般的!?離せ、離せってばこのー!」


全力で抵抗してやると、アレンの動きが少し止まった。
そして何だかすねたような顔で訊く。


「何で僕の悪口を言ってたんですか?」
「は……?って、聞こえてたの!?」
「聞こえてないとでも思ってたんですか」


アレンは途端に呆れた表情になった。


「君たちの騒ぐ声は食堂中に響いてましたよ。そのうえこんな場所で暴れるから……」


首をひねって辺りを見渡す。
テーブルの下は当たり前に狭くて、長身の神田とラビがいるからますますそう見える。
ラビがに言った。


「まぁ、あれだけ賑やかにしていたら偵察も何も全部バレるさ」
「わかってたのなら言ってよ……っ」
「あはは、ゴメン!」


半泣きなりながらが訴えると、ラビはにこりと笑って謝った。
ワザとだ。絶対ワザと言わなかったんだ。
きっとそのほうが面白いとでも思ったんだね、なんてひどい!
神田はというと不自然に目を逸らしているから、たぶんちっともそんなことには気づいていなかったんだろう。
こういう時お馬鹿さんな彼が愛おしくなるのだが、それでもアレンの魔の手からは助けてくれないみたいなので、やっぱり敵だ。
自分の周りには鬼しかいないのだということを再認識して、は強い瞳でアレンを見上げた。


「悪口なんて言ってないよ」
「………………じゃあさっきのは何なんです」
「ぜんぶ真実だー!!」
「ああ残念なお知らせです。今、僕の不愉快指数が頂点に達しました」


正直に告白したら拳を振り上げられた。
何だか普通に蹂躙されそうなので、は悲鳴をあげる。


「ちょっと、当たり前みたいに危害を加えようとしないで!」
「仕方ないじゃないですか。僕の目にはがサンドバックにしか見えません」
「とうとう無生物にまで堕ちたよ私!」
「大丈夫です。それでもぶっちぎりで世界ランキング1位の不愉快さを誇ってますよ!!」
「そっかそっかー。私が一番か嬉しいなぁコノヤロウ!!」


二人はギリギリと手を掴み合って何とも不毛な会話を交わす。
それでもやっぱりアレンのほうに腕力があるので、はしだいに追い詰められていった。


「や、ちょ……っ、やだ、やだってば!」
「いい加減あきらめてくださいよ」
「離してよ、もう……っ、アレン、やめ……!」
「はいはいすぐに楽になりますからね」


すぐ目の前で繰り広げられているそんな会話に、ラビが何となく半眼になって言った。


「なぁ、オマエら声だけ聞いてるとかなり危ないんだけど」
「「はぁ?」」
「なんつーか、ハレンチ」
「「これのどこが!?」」
「よく見ると体制も危ないさー」


ラビが小声で指摘して、アレンはを見下ろした。
はもうラビに構ってられないらしく必死に抵抗していて、アレンの手がその両手首を掴み、床に押し付けている。
引きずり倒した彼女の体に、アレンはいつの間にかのしかかるようにして覆いかぶさっていた。
華奢な足がアレンを突き放そうともがき、くうを蹴る。
恐怖に涙を浮かべた目が、それでもアレンを睨みつけていた。
暴れたために高潮した顔があまりにも近くにあって、アレンは驚いた。


「うわ……っ、いて!」


アレンは咄嗟に離れようと勢いよく身を起こして、後頭部をテーブルの裏に強く打ち付けた。
鈍い音がして、アレンは痛みに頭を抱える。
急に手を離されたはアレンの下で目を見張った。


「な、何してるの?」
「いったぁ……っ」


そしては見た。
激痛に震えるアレンの後ろに、笑顔のラビが這ってくるのを。
何をする気かといぶかしんだ途端、ラビはアレンの背中を突き飛ばした。


「おおーっと!ぶつかっちまったさー!」
「うわっ!」


突然の背後からの衝撃に、アレンは前に倒れこんだ。
つまりの上に倒れこんだ。
少し離れていた銀灰色の瞳が一気に近くなる。
何か柔らかいものが頬に触れた気がしたが、それよりもは叫んだ。


「うおーい、ちょっと何この展開ー!なに勝手にドッキリハプニングになってんのー!相手がアレンなのが許せないぞこらー!」
「ばっかオマエそこは“きゅん!胸がドキドキ、何だろうこの甘酸っぱい気持ち……。これが恋なの!?”って頬を染めるところだろ!!」
「そんなベタで痒い煽り文句いるかぁ!だいたいあんた今わざとアレンを突き飛ばしたじゃない!」
「それよりボディタッチはあったか?ちゅーでもしたか!?」


ウキウキと訊いてくるラビは、妙に楽しそうで腹が立つ。
はヤケになって投げやりに答えた。


「ご期待通りほっぺに唇が当たったよーハイハイ!」
「何だよそれだけかよ、どさくさにまぎれてもっとスゴイことすりゃあいいのにアレンってばつまんねー!」
「どんな絶望を要求してるの、この馬鹿ウサギ!」
「オマエも女としてその反応はどうなんさー。ホントつまんねー」


勝手な不満をぶちぶち述べているラビに本気で殺意が湧いてきて、は拳を握った。
そのまま掴みかかろうとしたが、上にまだアレンが乗っているので身動きがとれない。
はアレンの肩を掌で押した。


「ちょっとアレンどいて!ラビに右ストレート叩き込むんだから!あの変態面を確実にしとめてやる!!」
「……………………」
「アレン!アレンってば早くっ」


はせかしたがアレンは動こうとはしなかった。
それどころか返事も返さないので、じれたは彼を見上げた。
そして瞳を見開いた。
目と鼻の先にアレンの顔があった。
そしてその頬が真っ赤だった。
暗がりの中でもハッキリとわかるほどに高揚している。
片手で自分の唇を押さえていたからその原因はすぐにわかったが、は余計に混乱した。
正直にとって頬にキスなどは子供の遊びのようなものだ。
育った国の認識の違いかとも思ったが、アレンの場合それも有り得ない。
しかもこれはただの事故である。
はアレンの頬が赤いのは、こんな事態へと持ち込んだラビへの怒りのあまりかと思った。
そのほうが納得できてしまったのだ。
だから硬直してしまったアレンを、何だか不憫に思って声をあげた。


「ラビ!アレンなんて怒りのあまり声も出ない様子じゃない!どうしてくれるの!?」


「どうしてくれるはこっちの台詞だ……!」


答えたのはラビではなかった。
陽気な彼の声よりももっとずっと、遥かに低い。
視線をやった先で、黒い刀身が銀色の輝きを纏う。
は青ざめた。
ラビはもちろんのこと、頬を赤くしていたアレンですら蒼白になる。
そして彼の怒りが爆発した。



「どうにかしてやる、この大馬鹿どもがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」



神田の怒声と共に抜刀された『六幻』が閃き、テーブルを木っ端微塵に爆砕した。
その下にいた三人は言うまでもなく、ものの見事に吹き飛ばされたのだった。




















それからは延々とお説教が続いた。
神田はまず余計なことをしでかしたラビを締め上げ、事故とはいえキスをぶちかましたアレンをしごき、最終的にテメェが全て悪い!ということで、を全力で叩きのめした。
もちろん口と手の両方を使って。
そんなわけで、開放されたころにはは見るも無惨にヘロヘロになっていた。
それでも食堂の後始末には懸命に勤しんだ。
アレンとラビが申し出てくれたので、思わずその手を借りてしまったが。(神田にやられた全身が痛かったので、二人の手助けは大変ありがたかったのだ)
けれどようやく片付けが終わり、やれやれと肩を落としたのも束の間。
今度はリーバーに科学班の手伝いを請われ、逆らう間もなく連行、そのままなし崩しの形でコムイに書類を山ほど押し付けられた。
さんざんだ。
今日はなんて最悪な日なんだろう、と心の中で悲鳴をあげる。
己の不幸に涙ぐみながら紙の上にペンを滑らせ、任された仕事を終わらせていく。
一度にすべては無理だから、とりあえず仕上げたぶんだけ両腕に抱えてコムイのところに持っていくと、彼はコーヒーをすすりながら言った。


「ありがとうちゃん。じゃ、次コレね」
「はーい。………………っておいー!まだあるから!頼まれた仕事、まだ山ほどあるから!」


は研究室の隅にある自分の机を指差した。
本来、科学班員ではないの机は間に合わせのもので、リーバー達のものと比べるとかなり質素な造りをしている。
その傷だらけの机上には訴え通りに、まだ書類がわんさか乗っかっていた。
は声を厳しくして抗議した。


「見て!私の机を埋める、あの書類の山を見てくださいっ」
「ああ駄目だよちゃん。整理整頓はきちんとね」
「あなたにだけはそれ言われたくないなぁ、そして散らかってるのは誰のせいか考えて!」
「うーん、どうやら君には収納のテクニックがないようだね」
「どこまでも私のせいにする気ですかー!?」
「でも大丈夫。君はやれば出来る子だよ!」
「あはは、いい笑顔ですね!なんかもう、書類を始末するよりコムイ室長を処理したほうが早い気がしてきましたよ!?」
「それじゃ元も子もないでしょ、ハイがんばって!!」
「ちょ……っ、信じられない……、誰でもいいからこの人何とかしてー!ホント最悪だよー!?」


本気で泣き叫びつつも、突き返すことなく受け取るのがだった。
一度くらい断ってみればコムイも考えるのだが、何だかんだでこなしてくれる彼女だからこそ、ついつい任せてしまうのだ。
は追加された分を腕に抱えると、憤然とした様子で踵を返した。
その向かう先が自分の机じゃなかったので、リーバーが声をかける。


「おい。どこ行くんだ?」
「談話室です!机が埋まってて使えないので、とりあえずこれだけはそっちでやってきます!」


今回は仕方なくだが、は普段から好んで談話室で仕事をする人物だった。
あちらのほうがソファーで座り心地がよく、照明も淡いのが気に入っているようだ。
さらにそこに行けば誰かが必ず寄ってくるので、猛然と書類を仕上げる合間の気分転換が出来る。(仕事を押し付けられた愚痴をこぼしたいというのも、確かにその中に含まれていた)
科学班にも人は多いが、会話を楽しめるほど元気な者は稀だった。
そのための足が談話室に向くのは、仕方のないことだったのである。
リーバーは自分の白衣とは違う漆黒の団服を纏った少女を見て、言葉を濁した。


「あー……そうか。いつも悪いな」
「同情するなら豆乳をくれー!」
「はいはい、ぜんぶ終わったらその変な好物を好きなだけ奢ってやるよ」
「え、本当に?やった、リーバー班長だいすき!」


はふくれっ面をすばやく緩めると、笑顔を振りまいて研究室を出て行った。
その様子にリーバーは何となく笑ってしまう。
心なしか、がいると科学班は明るく、どこか活気付く気さえするのだった。













「とりあえず30杯は絶対だよね。リーバー班長ってば優しいんだから!」


るんるんとスキップをするような足取りでは廊下を歩いていた。
一歩進むたびに横結びにした金髪が跳ね、短いスカートが翻る。
瞳には光が踊っていたが、何とも魅力的なそれは、腕に抱えた大量の書類に隠されていて誰の目にも触れることはなかった。
視界を白い紙の色だけで染めていても、の足取りに迷いはない。
前方が見えていなくても、人がいれば気配でわかるものだ。
そして角を曲がったところにそれを感じて、は足を止めた。
聞こえてきたのは数人の華やかな声。
そしてその中に、聞きなれた少年のものが混じっていた。
は抱えた書類の山から上半身だけ横に突き出して、角の向こうを覗き込んだ。
そこには予想通りアレンがいた。
こちらに背を向けて、幾人かの女性と語らっている。
にこやかなその対応と、頬を染める女性郡に、は眉をひそめた。


「どうしてアレンがモテるんだろ……」


朝は結局ゴタゴタのまま終わってしまったので、何となくそれを考えてみた。
アレンに眩しいほどに熱烈な視線を送る、たくさんの女性たち。
ある意味、露骨なまでのその気持ちを想像してみるが、どうにも絶対に難しかった。


「あのお姉さんたちは何か……、何か危ないモノにとり憑かれてるんじゃないかな」


思わず呟いてから、それはあまりにヒドイかもしれないと考え直して、独り言にフォローを入れる。


「まぁ……。確かに顔は綺麗だと思うよ。すごく」


うーんと眉を寄せて、ひとりで頷く。
まじまじとアレンを見つめてみる。
肌は白いし、目は大きいし、本当に綺麗だ。
睫毛が長いなぁ、と思いながらはため息をついた。


「女の子だったら良かったのに。そしたら私も」


大好きになっていたかもしれない、という考えがかすめて、は咄嗟に首を振った。


「ううん、それは有り得ない!男だろうが女だろうが、腹黒魔王にかわりはないもの」


は力強く言い切った。


「やっぱりアレンがモテるだなんて、絶対に不自然なのよ!!」


「君のほうがよっぽど不自然ですよ」


唐突にそう返事を返された。
すぐ目の前からだ。
よく見てみるとそこにはアレンがいた。
あれ?と思って辺りを見渡してみると、は談笑をしていた女性達の輪のすぐ脇に立っていた。
どうやらアレンを観察するのに夢中になって、ついつい近くまで来てしまったようだ。
不自然なまでにアレンを眺め回していたことにようやく気がついて、は誤魔化すように笑い、じりじりと後ずさった。
そして角の向こうまで戻ると、再び観察する体制に入った。


「だから不自然ですってば」


アレンが苛立った声で言い、は書類の山で身を隠しつつ答える。


「何で気づくのよ、隠れてたのに!」
「馬鹿なこと言わないでください。ぶつぶつ言いながら周りを歩き回られたら、嫌でも気がつきます」
「はぁ……。アレンは本当にわかってない。ここは優しく見ないフリをするのが紳士ってものでしょ?」
「なにが紳士ですか。相手にそんな面倒なことをする気はありませんよ。時間の無駄です」
「ちょっとそこのお姉さんたち聞いたー!?これ!これがアレンの本性だよ!!」


思わず冷たい言葉を放ったアレンに、は嬉々とした声をあげたが、ものすごいスピードで近づいてきた彼に素早く口を塞がれた。
顔をずいっと寄せられて、細められた銀色の瞳に見下ろされる。


「……あまり余計な手間をかけさせないでくださいね」


にっこりと微笑みかけられて、は顔色を失くした。
もう一言でも何か言えば、確実に息の根を止められる。
そんな絶望的な予感に全身が凍る。
硬直したを器用に己の体で人目から隠しながら、アレンは女性たちを振り返った。
そしてとろけるような笑みを浮かべた。
に向けたものとは天と地ほども違いがある。
その笑顔に先刻のことは流され、女性たちはウットリとした。
やがてそのうちの一人が口を開いた。


「ねぇ、前から聞きたかったのだけど」


それは特に熱い視線をアレンに送っていた、褐色の髪の女性だった。


「アレンくんとさんは随分仲がいいのね」


これのどこが。


は心の中で絶叫したが、アレンの手が邪魔で声にならなかった。
アレンも一瞬頬を引きつらせたが、エセでもさすがは英国紳士、笑顔を崩さず首を傾けた。


「そうですか?」
「ええ。教団で一番親しいように見えるわ」


有り得ない。


はまた絶叫したが、やはりアレンの手に押しとどめられる。
その指先が確かに震えたのを感じて、はもうそれ以上何も言わないで!と祈ったが、彼女は続けて口を開いた。


「もしかして、恋人なの?」




「どーして!どうしてそんなトチ狂った結論に達しちゃったのかなぁ、最強に不思議だよ世界どころか宇宙の謎だよ!!なんて破壊力抜群なこと言ってくれるんだ、謝ってくださーーーい!!!」




は渾身の力でアレンの手を振り払うと、教団中に響き渡るような大声で叫んだ。
何だか目から涙が出ていたが気にせずに怒鳴る。


「おかしいよ、絶対おかしいよ、何をどう見たら毎日死闘を繰り広げている私とアレンが仲良しに見えるんだ!まずそこから理解できないのに、恋人だって!こ…い…び…と!!」


自分で言っては身震いをした。
うわー想像もできない、そんな世にも恐ろしい現象!


「恋する乙女の心配にもほどがある!私がライバルになるなんてこと絶対にないから!むしろアレンが私のライバルだから!!」


はアレンに書類の山を押し付けるとずかずか近づいていって、褐色の髪の女性の手を取った。
彼女はの剣幕に半ば呆然としていた。
は気にせず、涙の滲んだ瞳で言う。


「貴女みたいな素敵な人を恋に落とすだなんて、本当にアレンが憎らしい……」
「え……、そ、そんな……」
「ううん、羨ましいって言うべきかな。私も見習いたいぐらい。ねぇアレンのどこが好きなの?」


が真剣に尋ねたから、女性は思わず少し考え込んだ。
そしてその場にアレンがいるにも関わらず、答えてしまったのだった。


「それは、なんと言っても優しいから……。紳士的で素敵じゃない。いつもゴーレムと一緒で可愛らしいし」
「ああ、やっぱり騙されてるんだ……」


その答えにの肩が震えた。
瞳に不満を宿して強く女性の手を握る。


「違うよ、それは丸ごと演技なんだよ!育ちのよさそうな見た目にティムキャンピーという可愛いオプションをつけることによって、さらに世間受けのいいキャラを演出してるんだよ!」
「ちょっと勝手なこと言わないでください」


書類の山を片手で持って、アレンが後ろからの頭を掴んだ。
顔の向きを固定されてしまったのでは視線だけで振り返る。
そこにいたアレンは、やはりどう間違ってもには見せない綺麗すぎる笑顔を女性達に向けていたので腹が立った。
また余所行きの、例の笑顔だ。
はアレンに頭蓋骨を鷲掴まれたまま、彼に言う。


「そういう計算なんでしょ、腹黒い魂胆なんでしょ?」
「違いますよ。僕は君と違って真っ当に生きてますから」
「真っ当?じゃあその完璧な笑顔は何なの、15歳でそんな大人びた顔ができるわけないでしょ!私の知っているアレンは、そんな顔で笑わない!!」
「な……っ」
「見くびらないでね。それは無理してがんばってる結果だって私は知ってる。だって不自然全開だ!」


は勢いよくアレンを指差した。
頭を掴まれているからうまくいかずにジタバタする。
けれどは何だか止まらなくてとにかく続けた。


「紳士的っていうのも間違いだよ、私はアレンほど気まぐれな人を知らないもの!笑ってたと思ったら、次の瞬間には怒ってたりして、理由を聞いても答えない!何でもかんでも私のせいにしてくるし、実のところはかなり子供っぽいんだから!!」
「……………………」
「すぐにムキになるし、冗談言ってもキレるし、極度の負けず嫌いだし、舌も鋭ければ手も早い!お腹がすくと不機嫌になって、満腹になると怒ってたこともだいたい忘れちゃう便利な性格かと思ったら、唐突に昔のことを持ち出して、ちくちくいじめてくるイジワルなやつなのよ!!」


何だかいろいろ思い出してきて、は足を踏み鳴らした。
どうせここまで言ってしまえばアレンに報復されるのは決定事項なので、言いたいことは全部言ってやろうと思ったのだ。


「人のことをすぐに馬鹿だの何だのとけなすし、ケンカ上等で大安売りだし、本当に容赦がない!それに他の女の子達と私に対する態度の違いは何!?詐欺じゃない、差別じゃない!そのくせイキナリ優しくなったりするのよ、それでこっちも素直にお礼とか言ったら今度は腹立つぐらい冷たくなるんだ!ねぇだから考え直した方がいいよ、こんな澄ましかえった笑顔に騙されないで!!」


はそこで視線を前に戻した。
何故だかアレンからは力が抜けていたので、掴んでくるその手から逃れる。
そして褐色の髪の女性の手を揺さぶりながら、心の限りを込めて言った。



「アレンが普通に笑ったら紳士的だなんて言えない、ただの15歳の男の子にしか見えないんだから!!」



一気にまくし立て終えると、息が切れていることに気がついた。
あースッキリした!とばかりに空気を吸い込む。
それから辺りを窺うと、皆が一様に呆然としていた。
それに気がついて、は自分の失態を悟った。
アレン本人だけに訴えるべきことを、勢いのまま思わずここで言ってしまった。
恋する乙女というのはどうにも繊細で、彼女達の前でアレンの本性をぶちゃけるというのは、夢を壊すのと同義なのだ。
目を覚まさせてやりたいと思っていたが、もっとゆっくり説明してやればよかった。
懇切丁寧に説得するという当初の予定が台無しである。
これはどうしようかな、とが思っていると、いきなり肩を掴まれた。
背後からだ。
強く強く骨が軋むまで握られて、は硬直した。


「僕の人物批評を長々とありがとうございます、


こうなることはわかっていたけれど、は振り返りたくなかった。
やっぱりまだ命が惜しかったのだ。


「う、嘘は言ってないよ!」
「ええ、そうですね。まったくその通りだと思いますよ」


怯えながらも強気に言うと、思いのほかアッサリとアレンは認めた。
はかなり驚いて彼を見上げた。
アレンの表情は怒ってはいなかった。
どちらかというと、笑顔に近かった。
口元は引き結ばれていたけれど、瞳が微笑んでいた。


「でも、僕がそんな態度を取るのはだけで。それは紛れもなく君のせいなんですよ」


は目を見張ったまま、とりあえず口を開いた。


「……ほら、そうやってすぐに私のせいにする」
「事実なんだから仕方ないでしょう」
「じゃあ私のなにがアレンをそうさせるのか、教えてよ」
「僕が言ってしまったら、君に責任を取ってもらうことになりますよ。……少しは自分で考えたら?」


アレンはさらりとそう言うと、自然な動きでの肩に手をまわした。
それからいまだに呆然としている女性たちに微笑みかけた。


「すみません、馬鹿がお騒がせしました。僕が責任を持って連れて帰りますので、許してやってください」
「ちょ……っ、誰がバカ……」
「君ですよ。それじゃあ、また」


アレンは優雅に手を振ると、を引きずって歩き出した。
は文句を言っていたが、途中から悲鳴に変わった。
何をされたのかは本人以外知ることはなかったが、ちょっと尋常じゃない叫び声である。
それをぽかんとしたまま見送って、褐色の髪の女性が呟いた。


「やっぱり仲いいじゃない……」


周りの数人は一斉に頷いたのだった。










サイト設立一周年記念夢です。
ヒロインがアレンがモテる理由を突き止めようとがんばりました。空回ってますけど。(笑)
私は彼がモテて当然だと思いますよ〜。神田もラビも。
けれどヒロインはあくまで“友達”として彼らを見ているので、よくわからないようです。
もちろん人間としては大好きなんですけどね。
後編では若者らしく青春を楽しんでもらおうと思います。
よろしければ引き続きどうぞ〜。