白銀に溶けた秘密の告白。
いつかもう一度、聞くことはできるだろうか。
● 愛しさの境界線 2 ●
「ごめん……」
隣を歩くが、歯切れの悪い口調でそう呟いた。
彼女がそんなふうに物を言うのはかなり珍しく、アレンは驚いた。
書類の山を持ち直しながら尋ねる。
「なにがですか?」
は目を伏せたまま、アレンと同じように書類を持ち直した。
確かに一度はアレンにその山を押し付けただが、女性たちへの説得が終わるとすぐに取り返そうとしたのだ。
けれどアレンが折れず、も引かなかったので、結局二人でそれを手にしている。(言いくるめて全体の三分の二はアレンが持ってやっているが)
は何だか言いにくそうに目を瞬かせた。
「べ、別にアレンに謝ったというか、その……。とにかく!あのお姉さんたちはアレンのことが好きなのに、私が話の邪魔をしちゃって、しかもこうして連れ出しちゃったから。悪かったなぁって思って」
「ああ、そういうことですか」
「駄目だな、私。突っ走り一直線で。もうちょっと考えて行動しないと」
その殊勝さを女性相手じゃなくても見せるようにしてほしいものだとアレンは一瞬思ってしまったが、口に出さないだけで、は誰に対してもそういう人だということは知っていた。
彼女の場合、素直にそれを言葉にするかどうかの違いがあるだけなのだ。
アレンは肩をすくめた。
ちょっと落ち込んでいるを慰めるためではなく、本当のことを言う。
「でも正直、僕は助かりましたよ」
「え?」
「どうすればいいか困っていたところだったんです。好意を持ってくれるのはとても嬉しいんですけど、少し疲れてしまって……」
アレンは本当に疲労のにじむ吐息をついた。
「の言う通り、僕は無理してがんばっているのかもしれません。いつからかはわからないけど、他人と話すときは反射的に笑顔になってしまうんです。それが苦だと思ってるわけじゃないけど……」
言葉はそこで途切れた。
けれど言わなくてもわかる気がした。
は憂いを帯びたアレンの横顔を、じっと見つめる。
それから嫌そうに口を開いた。
「……確かにアレンってしんどそうな性格してるよね」
「うん……。自分でもわかってるよ」
「やめたら?」
「無理言わないでください。もうクセになってるんです」
「私は嫌いだよ」
が囁いた。
それは少しだけ、真剣な色を帯びていた。
「アレンの、あの笑顔は大嫌い」
「………………」
「あれは見ていて何だか落ち着かなくなるんだ」
「……だから、君の前ではしないでしょう。というか、出来ない」
「私以外の前でもしないでよ」
先に立って談話室に入りながら、が背中で語る。
「他人を気遣えるアレンはすごいと思う。でも、もっと“本当”でいてほしいなとも思うんだ」
「……」
「不機嫌そうな顔も嫌いだけど、あの笑顔よりはいい。素直なアレンのほうがいい」
アレンは思わず足を止めてしまった。
は書類の山をテーブルに下ろして、続けた。
「素直に笑ったアレンがどれだけかわいいか、あんたは知らないのよ」
ばさり、と大きな音がした。
アレンが見下ろしてみると、抱えていたはずの書類をぜんぶ床にぶちまけてしまっていた。
が飛び跳ねるようにして振り向いて、そのまま駆けてくる。
「うわー派手にやったね、拾って拾って!」
「………………」
「アレン?」
何だか呆然と金髪を見下ろしていると、不思議そうにが見上げてきた。
その金の瞳を見た瞬間、頬が赤くなった。
誤魔化すようにしゃがみこんで、怒ったように言う。
「が変なこと言うから悪いんですよ。手が滑ったじゃないですか!」
「は?私なんか言ったっけ?」
「かわいいなんて誉め言葉じゃない!!」
「誉め言葉でしょ。普段から素直に笑ってたら、あんたがモテたって頷けるもの。そうじゃないから気に食わないのよ」
慣れた手つきで書類を拾い集めながら、は平然と告げた。
それがどれだけアレンの心に大きな意味をもたらすのか、まったくわかっていないような口ぶりである。
嬉しいのか腹立たしいのかよくわからない感情に襲われて、アレンは思わず口を開いた。
「じゃあ君が言うように笑っていたら、僕のこと好きになってくれますか」
“誰が”と限定しなかっただけ救いかもしれない。
は一瞬手を止めて、驚くぐらい真剣な瞳をしているアレンを見上げた。
それから呆れたように笑った。
「まだ女の子にモテたいの?」
「……………………」
「今でも充分だと思うけど。そうだね、好きになるよ」
は拾い集めた書類を抱えると、身軽に立ち上がった。
「絶対にね」
“君は?”と聞いてしまいたい衝動に駆られた。
他の人はどうでもいいから、はどうなのか知りたかった。
けれどそんな想いは声になる前に、胸の奥へと閉じ込められる。
アレンは唇を噛んだ。
頭の上からの声が降ってくる。
「でも今のところ、そうなる可能性は低いみたいだけど」
はソファーまで歩いていってそこに腰掛け、テーブルの上に書類を置いた。
アレンも向かいに座って、そこから拾った紙の束を彼女に手渡す。
お礼と共に受け取りながら、は言った。
「だってみんなに対する態度が完璧だもの。本当にアレンはすごいよ、敗北宣言したいぐらい」
「…………何の話ですか」
「私への態度と、その他の人への態度の違いの話。どうしてそこまで変われるのかな。もう才能だよね。うん、アレンは天才だ!」
アレンは一瞬、誉められている気分になったが、結局はけなされているのだった。
半眼になってを睨みつける。
「君は僕をなんだと思ってるんですか」
「腹黒。そして魔王」
「即答しましたね」
「まぁ本性全開でいくと、普通の人はあんたの毒舌にやられて立ち直れないと思うから。徐々に見せていく感じなら、どうかな?」
「………………無理だと思いますよ」
「やる前から諦めてどうするの」
はぴしりと指を振ってやる気皆無のアレンをいさめた。
アレンは深いため息をつき、ソファーに身を沈める。
それからしばらく沈黙が過ぎた。
はテキパキと書類を揃えなおすと、仕事を開始した。
猛烈な勢いでそれらの処理にかかる。
紙の上をペンがひたすら走り、時折別の資料を確認、仕上げていく。
めまぐるしく動くの双眸と手を見やって、アレンは言った。
「手伝おうか?」
は目だけをあげて答える。
ペンは一向に止まらない。
「ううん、いい。ありがと」
やけにアッサリ断られてしまった。
アレンはそう思って、の仕上げた書類を一枚手に取った。
そして眉をひそめる。
なるほど、手伝いはいらないと言われるわけだ。
何故なら紙の上に羅列する文字も数字も、アレンにはまったく理解できないものだったからだ。
それが何を意味しているのか検討すらつかない。
仕方がないのでアレンは書類をテーブルに戻して、背もたれにもたれこんだ。
ソファーの手すりに肘をついて、何となく窓の外を眺める。
いい天気だ。
こんな気持ちのいい日は外に行きたいけれど、昨夜帰ったばかりでは任務もないだろう。
街に行くにも特に用事はないし。
ああでも日差しが本当に気持ち良さそうだな。
そんなことをぼんやりと考えていたら、の声がした。
「アレン、私仕事してるからあんまり話し相手になれないよ」
アレンは頬杖をついたまま視線をそちらに投げた。
の手はやはり止まることを知らないようだ。
「それは見ればわかるけど?」
「いや、だからさ」
左手で資料である分厚い本のページを捲りながら、は何かを書き続ける。
「そこにいても暇じゃない?」
ああ、そういうことか。
の言いたいことがわかって、アレンはますますソファーに身を沈めた。
ここにいる理由なんて暇とかそんなもの関係ないのに。
頬杖で上半身を支えて、ちらりとを見る。
「そんなこと、君が気にすることじゃないでしょう」
「うわ、憎らしい。だからどうしてそう私には反抗的かな」
「さぁ、どうしてでしょうね。自分の胸に手を当てて考えてみれば?」
そう言ってやるとは本当に胸に手を当てて考え出した。
真面目に思考してくれているみたいなので、アレンは少しどきりとする。
何だか落ち着かない。
真剣な表情のはしばらくした後、アレンを見上げた。
アレンの心臓がまたひとつ跳ねる。
そしては何だか泣きそうな顔で、アレンに言ったのだった。
「も、もしかして……、アレンは私に暴言を吐かないと死ぬとか、そーゆー絶望的な病気でも患っていたの……?」
阿呆だ。
アレンは改めてをそう認定し、無視を決め込もうとしたが、史上最強の阿呆はまだ一人で喋っていた。
「ただでさえ本性が腹黒魔王なのに……!毒舌効果が倍増じゃない!さ、最悪だ!どうしよう、どうすれば私に明るい未来がやって来るの……!?」
「……。仮に僕がそういう最強に可哀想な病気だったとしましょう。君が言うことは自分の明るい未来ですか。僕の命はどうでもいいんですか」
「私に明るい未来が来たらアレンの命も助かるよ、きっと」
「何を根拠に!と言うか、自分に責任があるとか思わないですか!どうして僕が君だけにこういう態度を取ってしまうとか、こう……いろいろと考えてくださいよ!!」
アレンは力強くそう要求したが、は哀しい目で一瞥を寄越しただけだった。
「それはもともと私達の相性が良くないからでしょ。それが悪いほうに転がって、アレンみたいな対反抗生物が誕生してしまったと……。真実とはいつも残酷だね」
「残酷性で言えば、君の頭の出来と察しの悪さのほうがよっぽど上だ……っ」
「ああ、私を罵る発作が起きてる!こんなときの対処法は……、『家庭の医学』の本には載ってないよね。『どんなダメ魔王でも躾けられる100の方法』の本はどーこへ行ったぁ?」
が山済みの本の山から、そんな在りもしない最悪の物を探し出したので、アレンは微笑んだ。
それも絶対零度の完璧な微笑みだ。
「ああハイハイそうですね。僕は病気なんです。もう末期なんです。君のことを考えると激しい動悸がして、心臓が痛くなって、顔色がえらいことになるんです」
「それは本気でマズイよ大丈夫!?」
「だから言ったでしょう。末期なんです。生きていくのに支障があるくらい」
アレンは言っているうちにくだらなくなってきて、クッションに顔を押し付けた。
何だか心が重くて体までだるかった。
疲れがたまっているのだろうか。
少し眠いな、と思ってアレンはぼんやり囁いた。
「全部のせいだよ。責任とってよ……」
「え?」
「何でもない」
それっきりアレンは黙り込んだ。
雰囲気で察したのか、も何も言わなかった。
彼女はああいうことにはどこまでも鈍感なくせに、こういうことには敏感だ。
沈黙がふたりの間に落ちて、流れていく。
がペンを走らせる音だけが続いていた。
窓から差し込んでくる日差しが温かい。
アレンはそれからしばらく仕事をするを眺めていた。
しかしいつの間にか視界が白くなって、消えていく。
それでもいつまでも金色が輝いていた。
の色だけが、光みたいにアレンの胸の中に残った。
仕事を一区切りさせて、は吐息をついた。
酷使してしびれてきた手をブラブラ振って、目の前に視線をやる。
山積みの資料と本に埋もれたテーブルの向こう。
向かい合わせのソファーで、白髪の少年が眠っていた。
立てかけたクッションに頭を預けて、足は床に投げ出したままだ。
寝苦しくないのだろうか、と思って、は立ち上がった。
テーブルを迂回してアレンに近づく。
「アレン」
呼びかけてみたが反応はない。
さすがに眠った彼を担いで部屋まで連れて行ってやることは出来ないので、可哀想だが起こすことにする。
「アレン。起きて、アレンってば」
何度か揺すってみたが、アレンは穏やかな寝息をたてるばかりだ。
はため息をついた。
「お疲れなのかなぁ。立て続けに任務だったもんね……」
顔色も良くないな、と思ってアレンの閉じた瞼にかかる白髪をかきあげる。
すると唐突にその手を掴まれた。
はぎょっとして声を出そうとしたが、相変わらず寝息は止んでいなかった。
どうやらアレンはまだ眠っているようだ。
「じゃあ何で掴むの……?」
思わず呟くと今度は引き寄せられた。
力は強くてはよろめき、アレンの上に倒れこんだ。
鼻を彼の胸にぶつけて悲鳴をあげる。
その振動と声にようやくアレンが身をよじって、薄目を開けた。
「う、ん……」
「ちょ……っ、痛いよ!」
「なに……。ティム……?」
「寝ぼけない!ウェイクアップ!おはようございます!!」
ソファーを叩いてが言うと、アレンはのろのろ視線を動かした。
そして自分の上に乗っかったを見つけて、
「おはようございます」
まだ寝ぼけきった返答をした。
瞳はぼんやりしていて、焦点もあっていない。
はそれを間近に覗き込みながら言う。
「ティムじゃなくてだよ」
「うん、。おはよう……」
「寝ぼけてる!起きようアレン。とりあえず目覚めようね」
はこうなれば実力行使、文字通り叩き起こすつもりで軽く拳を構えた。
しかしその腕はアレンに掴まれ封じられる。
寝ぼけ眼のまま、アレンが体重をかけてきたのでは彼の上からずり落ち、ソファーに座り込んだ。
その肩に頭を預けて、アレンはまた目を閉じる。
「おいおい、まだ寝る気だよ。アレン、起きて」
「嫌」
「寝ぼけてるくせに拒絶はハッキリだ!ねぇ起きてよ。眠いのなら部屋で寝よう」
「やだ」
「駄々っ子か、あんたは」
「いいからじっとしてて……」
押しのけようとするの手を握って、アレンは囁いた。
金の髪に顔を埋めて、吐息をつく。
求めるように寄り添われて、は動くに動けなくなった。
それに気を良くしたのか、それとも単に寝やすい体制を求めたのか、アレンはの肩をまわしてきちんとソファーに座らせる。
そしてもう再びの肩に頭を預けると、満足そうに息を吐いた。
「で、まだ寝るのね」
「眠いからね……」
「別に私を枕にしなくてもいいじゃない」
「これがいいんだよ」
寝ぼけているからか、アレンはやけに素直だった。
頬をゆるめて微笑む顔は、まるっきり子供だ。
「あたたかい」
「…………これがあの澄ましかえった顔のアレンなんだから、あのお姉さんたちも報われないよなぁ」
は思わずため息と共にそう呟いた。
すぐ傍にあるアレンの顔が可愛くて、思わず頭を撫でてやる。
彼の根が優しいことは知っているし、普段の冷たい態度がなければだって彼が好きだった。
いや別に今も好きなんだけれど、それを言わせてくれないのがアレンなのだ。
本当は友達として、人間として、すごく好きなのに、素直にそう言ったら彼は絶対に引く。
最高に嫌そうな表情で、最強に青ざめた顔で、「頭は大丈夫ですか……?」って言うに決まっている。
鮮明にそれを想像できる自分はちょっとすごいかもしれない。
「私もアレンのこと言えないのかな……」
ぽつりと一人ごちると、アレンが眠い声で訊いてきた。
「何が?」
「素直じゃないってこと」
「今さら……」
「そう、今さらね。でも全部アレンのせいなんだから」
そこまで言ってはハッとした。
何だかこれはアレンの言い分ではないか。
彼はいつだって何もかも“のせいだ”と言っていた。
自分がアレンのせいで優しい態度が出来ないのと同じように、彼もそうなのだろうか?
疑問に思って首をひねる。
するともたれかかっていたアレンの白髪が唇に触れた。
「いいこと教えてあげようか」
眠りかけのぼんやりした調子でアレンが言った。
は瞬く。
「いいこと?」
「そう、いいこと」
アレンの手がのそれに重ねられて、指の間を握る。
上から包み込むように手の甲を繋いで、アレンは吐息をついた。
「は僕のあの笑顔が嫌いなんでしょう」
「うん、嫌い」
即答してやるとアレンは少し笑ったようだった。
「僕はね、ああやっていないといけないと思っていたんだ。物わかりのいいフリで、微笑んでいないと駄目なんだって。そうじゃなきゃ誰もこんな僕を認めてくれないんだって、ずっと」
アレンの言葉はまどろみの中にいるからか、少しちぐはぐだった。
けれどそれよりも雰囲気で感じられることに、は目を伏せた。
アレンはイノセンスをその身に宿す人間。
それ故に実の両親に捨てられ、養父のもとで育てられた。
その養父もアクマとなり、彼が自ら破壊した。
呪いの傷を受け、哀しみに白く染まり、孤独の中で生きてきたのだ。
アレンが人一倍他人を気遣うのは、そんな過去が在るからなのだろう。
置いていかれる恐怖を、今もまだ鮮明に覚えているからなのだろう。
「でもだけは、本当の僕を認めてくれたから」
ぎゅっと手を握られて、は顔をあげた。
アレンは目を閉じていたけれど、口元が微笑んでいた。
「いいことを教えてあげる。僕がいつだって素直に笑っていられる、たったひとつの方法」
触れた手に、優しく力がこもった。
「そばにいて」
「え……?」
「そばにいて、。ずっと僕の隣で笑っていて。そうしたら、きっと」
アレンは微笑んだ。
それはだけが知っている、彼の本当の笑顔だった。
「僕は世界中の誰よりも、素直に笑っていられるよ」
繋いだ手が、まるで絆のようだった。
温かくて、優しくて、少しだけ切なかった。
胸が痛い。
アレンは幸せそうに吐息をつくと、今度こそ本当に眠ってしまったようだった。
穏やかな寝息が耳元で響いている。
肩に寄り添った温もりが愛おしくて、は彼の頭に頬を寄せた。
そうしてようやく気がつく。
「素直じゃない態度も、素直な笑顔も、私だけに見せてくれてたんだね……」
不器用な人なんだと、は思った。
アレンは誰よりも優しくて、温かくて、そして不器用だった。
他人のことを思うあまり、本当の自分をさらけ出せない孤独な人だった。
そんな彼の笑顔が見られるのならば、普段の冷たい態度だって、何だか許せてしまう。
は眠るアレンに額を寄せて、囁いた。
「ねぇ、私にだけは優しくしなくてもいいよ。そりゃあやっぱり腹も立つし、言い返しちゃうだろうけど、でもね。アレンが本当は優しいってこと、私だって知ってるんだから」
明るい日差しの中で、は微笑んだ。
まるで光のように。
「私だけが知ってるんだから」
優しい声がアレンの頬を撫でていった。
その顔に浮かんでいたのは、だけに許した本当の姿。
子供のように安らかな、幸せに満ちた笑顔だった。
「………………………………オイ」
地を這うような低い声で神田は唸った。
床に仁王立ちになり、両肩をいからせている。
目元を怒りで痙攣させながら、隣のラビに訊く。
「何だこれは」
「何って、お昼寝タイムじゃねぇの?」
最高潮に不機嫌な神田とは対照的に、ラビは笑みのにじむ声でそう答えた。
そして上半身をソファーの背に預け、その向こうを覗き込む。
「あーあ。二人とも幸せそうな顔しちゃって」
そこには白髪の少年と金髪の少女が眠っていた。
談話室の狭いソファーに身を寄せ合って横たわり、安らかな寝息をたてているのである。
若干アレンがを下敷きにしているようにも見えるが、特に苦しくはなさそうだ。
「たぶんアレンがにもたれて寝てたんだろ。でも途中でも寝ちまって、こう倒れちまったんじゃねぇの?」
「んなことはどうでもいい!!」
「訊いたのはユウさー」
ラビはクスクス笑いながら言って、神田の肩を叩いた。
二人が談話室に訪れた理由は簡単だった。
つまりを捜していたのである。
先刻ラビが科学班の研究室に寄った際、コムイにを連れてくるよう頼まれたのだ。
我らが室長曰く、「早く戻って来て、仕事はまだまだあるんだよ!」とのことだ。
ラビはそれに応じて研究室を後にし、その道のりで神田と出会った。
何をしているのかと訊いてみると「時間になってもが鍛錬場にやって来ない」と言う。
何でも手合わせの約束をしていたらしい。
相変わらず多忙な親友だと思い、ラビはとりあえず神田を連れて談話室へとやって来たのだ。
予想通りはそこにいた。
けれどこの事態は予想外だった。
「このバカ女……っ、俺との約束をすっぽかして何してやがる……!」
「だから昼寝だって。仕事で疲れたんだろ、不可抗力さ」
「……モヤシとくっついてるのも不可抗力だって言うのか」
「いんや、そこは同意の上かな」
「……っ、起きろテメェら!!」
神田は盛大に怒鳴ると、容赦なくソファーの背を蹴り上げた。
その凄まじい振動に飛び起きたのはアレンだった。
バネ仕掛けのように跳ねて、きょろきょろと辺りを見渡す。
「な、何ですか……?」
「何じゃねぇよ。表に出ろ、モヤシ」
神田は低くそう告げた。
アレンはまだ寝ぼけているらしく、そんな彼を見上げて首をかしげる。
眠気にぐらぐらする頭を支えるその様子に、神田はまたソファーの背を蹴った。
「意味わかんねぇって顔すんな!そのバカ女も叩き起こして、二人で俺に斬られろっつてんだよ!!」
「バカ女……?」
アレンはぽかんと聞き返し、眠気に眼を瞬かせた。
ラビが親切にその隣を指し示してやる。
「そこそこ」
アレンは素直にそちらへと視線を巡らせ、
「…………………………………………」
絶句した。
ぼんやりしていた瞳が焦点を結び、大きく開かれる。
アレンは言葉を失って、ただ自分に寄り添うようにして眠っているを眺めた。
ソファーに散らばった金髪と、横たわった柔らかな肢体。
アレンが硬直してしまったので、ラビは首を傾けた。
「なに驚いてるんさ。仲良く一緒に寝てたくせに」
それを訊いてアレンの肩がピクリと揺れた。
少しずつ思考が回復してきたのか、の上に乗ったままだった己の腕を取り戻す。
するとその重みが消えたことを不思議に思ったのか、金髪の少女が身じろぎをした。
目を閉じたまま微かに吐息をつく。
「う、うん……」
そうしては両腕を伸ばすと、隣に身を起こしていたアレンの腰に抱きついた。
仔猫が懐くように身をすり寄せてきたのだ。
ぬくもりを求めたのか、ぎゅっとしがみついて離れない。
それを見てラビは微笑ましいなぁと思ったのだが、神田は怒りしか覚えなかったようだ。
そしてアレンはというと、完全に限界を超えていた。
一気に頬が上気する。
それから真っ赤な顔で、咄嗟に突き放すようにをソファーの上から叩き落してしまった。
「きゃ……っ」
が変な悲鳴をあげた。
どうやら寝ぼけていれば、彼女もそれなりに可愛い声が出せるらしい。
甘く鼻にかかったようなそれに、アレンはますます頬を染めた。
「あ……っ、いた……、なに……?」
床の上に落ちたは状況が把握できていないようだ。
ぼんやりしたまま寝返りをうって、ソファーのほうを見上げた。
ラビが説明してやろうとし、神田が怒鳴ろうとしたが、それよりも早くアレンが唸った。
「な、なんで……っ」
「え……?なに……、っ、いたい」
「何で君が僕の隣で寝てるんですか!!」
アレンは困惑した声で叫んだ。
はわけがわからないという顔で瞬き、床に手をついて身を起こす。
寝起きのためその仕草はやけに緩慢で、普段の彼女が絶対に見せないほど無防備だった。
アレンは何だか奇妙な気分になった。
心臓が内側からじりじりと痛み、恥ずかしいような苛立つような、今まで知らなかった感覚に襲われる。
アレンはそれを誤魔化すように怒鳴った。
「なに呆けた馬鹿みたいな顔してるんですか!いえ馬鹿なのは前からですけど、だからってどうして僕の横で寝たりするんだ、向かいに居たはずなのに、しごとはどうした、ああもう馬鹿ですか君は!!」
「アレン落ち着けよ、混乱しすぎさ」
ラビが後ろから言ったが、アレンはそれどころではないし、いきなり怒鳴りつけられたは怒りにようやく目が覚めてきたらしい。
痛む腰をさすってアレンをにらみつけた。
「急に何するんだ、ひどいなぁもう!」
「ひどくない!こんなところで寝てたが悪いんだ!!」
「何言ってるの、先に寝たのはアレンでしょ!」
「な……っ」
「私は部屋に戻ろうって言ったのに、あんたがそのまま寝こけたんじゃない。放っておくわけにもいかないし、もたれてくるから動けないし……」
「それは……!」
何だか記憶が曖昧で、アレンは必死にそのことを思い出そうとした。
けれど脳裏に浮かんだのは温かくて柔らかくて、ひどく心地良かったことだけだ。
アレンはどうしようもなくて顔を真っ赤にしたが、の次の言葉がトドメとなった。
「それにアレンが言ったんじゃない。“傍にいて”って」
「「「…………………………………………」」」
アレンは完全に沈黙し、その背後でラビと神田が顔を見合わせた。
黒と緑の瞳が見開かれ、再びアレンへと戻る。
全員が硬直している空間で、の声だけがする。
「そう言ってくれたから隣にいたのに、この仕打ちはひどくない!?」
痛みに涙を浮かせて、はアレンに訴えた。
神田とラビも思わず彼を凝視する。
しばらく沈黙が過ぎた。
そしてアレンが口を開いた。
「ハァ?」
その声はこれ以上ない呆れが含まれていた。
思いがけない反応に驚くに、彼は怪訝そうに訊いた。
「何言ってるんですか。寝ぼけてるの?」
「え、え?ううん……」
あまりに不審気に言われたものだからは戸惑い気味に首を振った。
アレンはそれを見て半眼になる。
さばさばと首にかかる白髪を払いのけて、ため息をついた。
「いいえ、絶対に寝ぼけてますよ」
キッパリと断言する。
「だって僕が君にそんなことを言うはずありませんから」
「…………………………………………」
今度はが絶句する番だった。
ぽかんと口を開けてアレンを見つめる。
アレンはただただ不審そうにを眺めるだけだ。
だって自分が彼女にそんなことを言うはずがない。
いくら寝ぼけていたからといったって、
(そんな恥ずかしい本音、言えるものか)
それがアレンの絶対たる答えだった。
何だかの頭が心配になって、その金髪に手を置く。
瞳を覗き込むと見事に呆然としていた。
「大丈夫ですか?」
「………………」
「そんな変な夢を見るなんて具合でも悪いんじゃないですか。気分は?」
「…………………………」
「休みたいのなら部屋まで連れてってあげますよ」
「……………………………………」
を真剣に心配し、珍しく優しく気遣うその様子に、後ろからラビが言った。
「や……、あのさ。つまり何だ?」
「え?」
「はアレンにそんなことを言われる夢を見たと?そゆこと?」
「………………」
その可能性を指摘されて、ようやくアレンが目を見開いた。
驚いた顔でに視線を戻す。
この場合どちらがどうなのかわかりにくいが、とりあえずラビは混乱する頭を支えて口を開いた。
「なぁ、それってもう告白なんじゃ……」
「ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!!!」
唐突に大音声が黒の教団に響き渡った。
あまりに素晴らしいそれにアレンはソファーの背に倒れこみ、神田とラビは数歩後ずさる。
唖然とする一同の眼前では跳ね起きると、床に足を突き立てて仁王立ちになった。
その全身からは正体不明の凄まじい感情が迸っていた。
「ちがう、ちがう!夢なんかじゃない、アレンがそう言ったんだよ!!」
「はい?だから言いませんってば」
の勢いに驚きながらもアレンはハッキリとそう否定した。
困ったように眉を寄せているから、本気で言っているのだとにはわかる。
どうやらアレンは完璧にあのときのことを忘れているようだ。
けれどだったら本当に許せない。
何故許せないのかはわからなかった。
ただ怒りのような悔しさのような気持ちに、顔が真っ赤になる。
どうしようどうしようどうしよう、だって。
「……うれしかったのに」
「え……?」
目の前で見開かれた銀灰色の瞳はの気持ちなんてまるで知らないように、素直に驚きを映し出したから、本当に腹が立った。
それが自分勝手な感情であることを知っていたけれど、歯止めがきかないのがの勝気な性格の災いである。
半眼でアレンを見据えて、肩にかかった長い金髪をばさりと跳ね除けた。
「だったらこっちも前言撤回よ!アレンには今すぐ私に優しくすることを、断固として要求する!!」
「はぁ?また唐突にわけのわからないことを……」
「だって傷ついたんだよ。私の繊細なハートに大ダメージ!」
「繊細……?」
「そんなところに注目するな!いいからホラっ」
そこでが両腕を広げたから、アレンは顔をしかめた。
どういうつもりだ、この最強馬鹿は。
「何ですか」
「優しく慰めて」
「嫌です。何か嫌です」
「なぐさめてなぐさめてなぐさめて殴らせて!!」
「最後に本音が出た!!」
アレンが本当に嫌そうな顔でそう言うものだから、は彼に突撃した。
しかし間一髪のところで避けられる。
アレンが飛び退いたソファーには倒れこんだ。
そして身を乗り出し、背もたれの向こうに立っていた神田とラビに向かって嘆いた。
「見た!?見たよね、今の拒絶っぷり!他の人だったら絶対に避けないくせに!特に女の子なら優しく受け止めて、ここぞとばかりに英国紳士ぶるくせに!!」
「それよりテメェ、今なにしようとした……?」
「、お前アレンに抱きつきたいんか……?」
「二人揃って何おもしろいこと言ってるの?お魚をくわえたドラ猫を裸足で追いかけちゃってるくらい愉快な思考回路だなぁ!」
はちっとも面白くなさそうに笑って、ちらりと背後のアレンを睨みつけた。
その視線は鋭い。
「確認したかっただけだよ。アレンが私のことをどう思ってるのかってね!」
優しくされなくてもいい。
そう言ったのは本当だけれど、これにはやはり傷つく。
アレンが本音をさらけ出せる相手になれているのならばも嬉しいが、それだけでは説明がつかないことがあるのだ。
これはどちらかと言うと、気を遣うほどの相手ではないと思われているだけのような。
さらに言うと、この避けっぷりは、
「嫌われてるとしか思えない……」
低くひとりごちると、アレンが慌てたように手を振った。
「ちょ……、何でそうなるんですか!?」
「じゃあ今度は避けない?」
「……………………」
「黙ったよ!」
は何だか本当に傷ついてぷい、とアレンから顔を逸らした。
だから彼の頬が赤くなっていることになど気がつかなかった。
はソファーの背に片足をかけて大きく跳び、そこに立っていた神田とラビに飛びつく。
「ええい、もう腹が立つ!こうなったらヤケ酒だ、付き合え者ども!!」
「はぁ!?何で俺が!!」
「いやいや!付き合うのはいいけど酒は駄目さ!!」
「と言うか僕を無視して勝手に自己完結しないでください、あと抱きつくな!!」
青年二人に酔っ払いの中年男性のように絡んで連行しようとする見た目だけ美少女に、アレンは咄嗟にそう怒鳴った。
しかし勢いよく振り返ったにすぐさま返される。
「友達と仲良くして何が悪い!!」
アレンは一瞬だけ言葉に詰まった。
確かにはそうやって友情や親愛を表現する人だ。
けれどアレンの場合、それを真っ直ぐ受け入れるだけの余裕がなかった。
つまりは相手が悪すぎたのだ。
どうしようもなくて口を開くと、出てきたのは言い訳のような言葉だった。
「普通は友達に抱きついたりしないんです!!」
「するよ、普通にする!現に私はかれこれ十数年間そうやって生きてきた!」
「ああ、相変わらず可哀想な頭ですね。どこの誰が普通だって?この変人!!」
「ふーん、だ!やっぱり私たちは分かり合えないことだね!腹黒魔王には本当ガッカリだっ」
はアレンに向かって軽く舌を出した。
そのクソ生意気な表情に、アレンの中で何かが切れる。
同時に神田とラビにしがみついたから、思わず左手を握り締めた。
は身軽に一歩を踏み出し、友人達の手を引いた。
「ほら行こう!一発ハデに騒ぐんだから、付き合ってよねマイフレンズ!」
お願いします!と怒った顔のまま頭を下げて、は続けた。
「今日は踏んだり蹴ったりで飲まなきゃやってらんないんだから!!」
「踏まれたり蹴られたり、でしょう?」
その瞬間。
翻った白髪と迫り来る影に、は咄嗟に大きく後退した。
床に手をつき身をひねって着地。
アレンも神田とラビと間に着地し、すぐさま跳躍する。
腕を伸ばせばが回避しようとしたから、アレンは左手を発動した。
巨大化することで距離を稼いで彼女を捕まえる。
「そうでしょう。僕に、ね」
「………………踏まれたり蹴られたり?」
「そう。今からね」
「へぇ。でも私はどうしてアレンが怒ってるのかさっぱりだったりするんだけど?」
「そんなの決まってます。相手が君だからですよ」
アレンは挑むように微笑んだ。
神田とラビから引き離したものの、腹立ちはおさまらない。
この馬鹿といえば、ああやってすぐに誰とでも仲良くするのだから。
「さぁ、覚悟してくださいね。」
は一瞬頬を引きつらせたが、すぐに強気に瞳を光らせた。
隙を見て腕を振るいアレンの手から逃れる。
そしてふふんと笑った。
「確かに私たちの関係にはこーゆーのがお似合いかもね。何かあれば遠慮なくぶつかり合う。…………けれどアレン」
言いながらは胸元に手をかざした。
黒い閃光が閃き、金髪が舞う。
イノセンスを発動させては床を蹴った。
「覚悟するのはそっちよ!!」
「いい度胸です!!」
その瞬間から、対アクマ武器使用可の凄まじいケンカが開始された。
ぎゃーぎゃー言い合っている声からは二人とも、もう何に怒っていたのか忘れている気がする。
ただ相手に構ってもらいたくて攻撃を、ちょっかいを仕掛けているだけのような。
「つまり、いつも通りさ……」
ラビは呆れてため息をついた。
その隣で青筋を浮かべた神田が『六幻』を抜刀する。
「おいテメェら!最初に俺が言ったこと忘れてるだろ!!」
「ええ?何だったっけ!?」
「知りませんよ!と言うか神田、邪魔する気なら帰ってください!!」
「駄目だよアレン!あんたを見事に討ち果たしたら、神田も一緒にお祝いするんだから!!」
「ああ、だったら本当に帰ってくださいね神田!そんな事態には万にひとつどころか億にひとつもありませんから!!」
「勝手にふざけたことぬかしてんじゃねぇよ、テメェら揃って俺に斬られろ!!」
彼らが無駄にくっついていたことに怒り続けていた神田は、とうとうブチ切れて『六幻』を片手に激戦の中へと突っ込んでいった。
ますますもって事態はひどいことになり、すでに談話室は原型を留めていない。
脚が壊されひっくり返ったソファーの影に身を隠していたラビは、冷や汗をかきながら呟いた。
「何これ……、オレどうすればいいんかな」
今日も始まった日常の一コマが、さらに悪化して目の前に広がっている。
愉快な地獄絵図といったところか。
しきりに響く破壊音の中、ラビはとうとう覚悟を決めた。
何故ならどうせ自分も同類だからだ。
「しゃぁねぇな。オーイ三人とも!オレがジャッジしてやるさ!!」
ラビはホルスターから槌を引き抜くと、巨大化させながら三つ巴の戦いの中に飛び込んでいった。
「覚悟しろ腹黒魔王め!私はこれからも一切の手加減も容赦もせずに、真正面からあんたとやりあってやるんだから!!」
「こそいいかげん腹を括ってくださいね!僕は今まで通り、馬鹿な君を全身全霊で苛めて、遠慮もなく笑ってやる!!」
「「そっちが負けを認めるまでね!!」」
それまで絶対に離れてやるものか。
白髪の少年と金髪の少女は、測らずも同じことを心の中で強く叫んだ。
同時に側面から神田とラビが乱入してくる。
「だからテメェらは!」
「無駄だってユウ!コイツらわかんないまま言ってるんさ!」
「だったら本当にぶった斬るしかねぇな!!」
「判定は任せろ!!」
「何でよマイフレンズ!四人で戦うってわけ!?」
「勝手にしてください。僕は以外に興味はないんで」
が驚いた声を出し、アレンが半眼で言い放った途端。
『六幻』が翻り二人に襲い掛かってくる。
ついでにラビまで突っ込んでくるから回避する他ない。
けれど着地の瞬間、互いに攻撃をしかけるのは忘れない。
四つ巴の戦いはそれからしばらく終わらなかった。
明るい笑い声が、ぽっかり空いた天井の穴から大空へと響いていったのだった。
どれくらい時間が経ったかはわからない。
結局その騒動は、全員が疲れきって床にへたり込むまで続いた。
四人は頭を寄せ合うように、円になって寝転がる。
体の下の絨毯がくすぐったい。
ところどころ剥がれているのはご愛嬌だ。
談話室はすでに目も当てられない状態に陥っていた。
もう少し回復したら立ち上がって完璧なる片づけを始めなければ。
乱れた呼吸が四つ、静かに響いている。
陽が暮れてゆく。
黄昏に染まった室内。
「ねー……」
ぜーはーしながらが言った。
随分しんどそうではあったが、どこか楽しそうでもあった。
「ここの後始末をしたらさ」
は微笑んだ。
気配でそれがわかった。
「みんなで飲もっか」
そう言った途端、いっせいに吐息が漏れた。
肩の力を抜くように、微笑むように。
「嫌だって言ってもどうせ無駄なんでしょう」
「ムリヤリ巻き込まれるのはごめんさー」
「だから仕方ねぇ。付き合ってやるよ」
不満気なふりをして言われたその言葉には声をあげて笑った。
三人は身を起こす。
そして横たわったを覗きこんだ。
銀の瞳が、黒の瞳が、緑の瞳が、それぞれ見下ろしてくる。
はわずかに目を細めてそれを見つめた。
眩しい。
決して失いたくない光だ。
は親愛をもって真っ直ぐに見つめ返した。
すると三人が口を開いた。
そして声をそろえてこう言ったのだった。
「「「けれど、酒は絶対に駄目(ですよ)(だからな)(さね!)」」」
「…………………………………………」
とりあえず、さすがマイフレンズとだけ言っておこうか、とは思った。
(覚悟しろ。いつか絶対に、胸を張って言ってやる)
Love Love Love! I Love you !!
最後の愛の告白(?)はアレンかヒロインか、ご想像にお任せします。(笑)
結局この二人は互いに構って欲しくてケンカをふっかけちゃうんですよね。
けれど不器用だから嫌われていると思うところまでいっちゃうと……。不毛だ。(爆)
どちらかが素直になればすぐだと思うんですが。
神田は本当に父親気分です。対等な人間として認めているヒロインが、普通の女の子になる違和感が嫌なんでしょうね。
ラビは完璧に気づいていて傍観者を決め込んでいます。応援したいのはやまやまだけど、友人としてはやっぱり少し複雑なので。
当サイトの四人はこんな感じだと思っています。すごく微妙な関係。
ただとても大切な友人同士だということは間違いないです。うまく表現できてればいいのですが……。(汗)
そんなわけで当サイトも一周年を迎えることができました。
これもすべてこの文を読んでくださっている貴方様のおかげです。本当にありがとうございました!
よろしければこれからもお付合いくださいませ。
どうぞよろしくお願いします!!
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