誰も、何も。
僕の声を奪っていかないで。
君に言いたいことがあるんだ。
● Silent night 前編 ●
ある日、任務から帰ってみると。
僕の部屋の前には。
眠り姫がいました。
……………………………………………………いや、眠り姫なのは顔だけか。
アレンはそう考え直して、足元に転がったその物体を見下ろした。
口元が引きつって仕方がない。
何がどうして、コレはこんな状態に陥っているのだろうか。
心底呆れたアレンの視線は、自室の扉の前に注がれていた。
そこにあるのは忌々しいくらい綺麗な寝顔。
床の上に、長い金の髪が流れている。
姫君のように美しい少女が、アレンの部屋の前で幸せそうに寝こけていた。
しかしコレを眠り姫と呼ぶのには、かなり絶対に無理があった。
どこの童話に、廊下の床の上で、両手足を投げ出して、大の字になって眠るお姫様がいるだろうか。
そんなことを認めてしまえばグリム兄弟から苦情がきそうだ。
この馬鹿は全国の姫君に代わって僕が許さない、とアレンは強く思った。
だから遠慮容赦なく、文字通りに少女を叩き起こしてやった。
「あんたの辞書には手加減って言葉がないの!?」
瞳に涙を一杯ためて、エセ眠り姫は叫んだ。
両手はパタパタとせわしなく、体のあちこちをさすっている。
どうやら相当痛いらしい。(なんて満足な結果だろう)
「手加減ならしましたよ。これが僕の、君に対する精一杯の優しさです」
「これで!?内容量少なすぎだよ!」
「君の世界にある常識で測らないでください。とにかく今すぐ星に帰れ」
アレンはさらりとそう言って、そのまま自室に入ろうと扉に手を伸ばした。
しかしそれは勢いよく立ち上がった少女に邪魔される。
ぺしりと軽く手を払われて、アレンは眉をひそめた。
「何するんですか。どいてくださいよ」
「何なの!?この最高にひどい仕打ちは!」
「すみません、君の幸せそうな寝顔があまりにも腹立たしかったもので」
「腹立たしいのはあんたの方だー!!」
元気よく叫ぶを無視して、アレンは彼女の体をぺいっと脇に押しのけた。
何故ならそうしないと部屋に入れないからだ。
アレンは今、を相手に遊んでやる気がこれっぽっちもなかった。
しかしそんなアレンの背にぐん、と衝撃。
そそくさと自室に消えようとするアレンのコートの裾を、が後ろから引っ張っていたのだ。
必死に足を踏ん張ってがんばるその姿に、アレンは深々とため息をついた。
「何なんですかは。何がしたいんです」
「無視しないで話を聞いてほしいだけだよ!」
逃がさないように全力でアレンを捕まえながらが言う。
仕方ない、とアレンは彼女に向き直った。
「じゃあ訊きますけど。どうして僕の部屋の前で寝こけていたんです?」
「そんなの決まってるじゃない。アレンが帰ってくるのを待ってたんだよ」
「え……」
「待ちくたびれて寝ちゃったけど」
己の不覚を恥じるように眉を寄せるを、アレンはなんとなくドキドキしながら見つめる。
「……どうして僕を待ってたんですか」
「ああ、ラビとの罰ゲームで」
「さようなら」
アレンは自身でも驚くぐらい冷たい声でそう言って、に背を向けた。
少しでも期待した自分が馬鹿だったのだが、それでも彼女の言い分には腹が立つ。
何が罰ゲームだ。
けれど問答無用で部屋の中に入ろうとしたその背に、先刻とは比べものにならない衝撃を受けてアレンは足を止めた。
胸の前には華奢な両腕がまわされていて、強い力でしがみついてくる。
のしかかるようにして触れてくるその柔らかい感触に、アレンは声を荒げた。
「ちょ……っ!!!」
「逃がすとでも思った!?甘いよ!!」
そうじゃなくて!
アレンは叫んだが、は後ろからぴったりとしがみついてきて離れない。
あまりにも強くそうしてくるのでアレンは思わず振りほどこうとしたが、それに抵抗してさらにぎゅっと抱きしめられた。
アレンは目を閉じて、眼前の扉に額を押し付けた。
「そんな簡単に抱きついてこないでくださいよ……」
「それより話を聞いてってば!あんたが来てくれないと私が困るんだよ!」
「何の話ですか」
に抱きつかれたまま、微かに赤くなった顔を背けたまま、アレンが訊いた。
はアレンに逃げられるのを心配しているのか、早口で言う。
「今日が何の日か知ってる?」
「………………クリスマスでしょう」
「そ。だからね、みんなでクリスマスパーティーしようって」
「クリスマスパーティー?」
アレンは話の意外さに、眉をひそめた。
は頷く。
「最近、気の滅入る事件が多かったでしょ。戦争中だから仕方ないんだけどさ……。だから景気づけに一発
派手に騒いじゃおう、ってコムイ室長が」
「なるほど……、コムイさんの言い出しそうなことですね」
「任務に出てる人たちには悪いんだけど、せめて本部にいる人は全員集まれたら素敵じゃない」
「……それで、どうして君が僕のところに来るんです」
怪訝な顔で問いかけるアレンに、は首を傾けた。
「だから罰ゲームだって。ラビと勝負して不覚にも負けちゃったのよ。負けたほうは勝ったほうの言うことを
ひとつ、なんでも聞くって約束だったから」
「……じゃあラビに言われて、君は僕をパーティーに誘いに来たんですか」
「うん」
あっさりと首肯したに、アレンは盛大に顔をしかめた。
「ラビの奴……っ」
これがクリスマスプレゼントだとでも言いたいのだろうか、あの眼帯は。
どうにも彼は、自分とをくっつけて、面白がっている節がある。
は不満そうに、そして少し不安そうにアレンの服を引っ張った。
「ね、私が誘っても嬉しくないだろうけどさ。せっかくだから来てよ」
「……………………」
「お願い」
「……本当に、僕に来てほしいと思ってるんですか」
少し意地悪な質問だという自覚はあった。
それでも尋ねずにはいられなかったのは、やはり期待をしているからだろうか。
アレンがを見つめると、彼女はその金色の瞳を見開いた。
「当たり前じゃない!」
「……本当に?」
「だってあんたが来てくれないと、私はラビに何されるかわからないんだよ!?」
「帰ってください」
アレンは取り付く島もなくそう言い捨てると、の体を自分から引き剥がした。
抵抗する間も与えずに突き離して、自室へと引っ込む。
呼び止めようしたの鼻先で、バタンッと扉を閉めてやった。
ああ忌々しい。
どこまで僕は眼中外なんだろう。
あまりにも腹立たしかったので、扉の向こうで騒ぐを、アレンはことごとく無視してやった。
「アレン!」
は閉ざされた扉の前で叫んだ。
どうにも先刻の彼の態度はひどい。
不機嫌そうな顔ばかりで、いつもの嫌味な笑顔すらなかった。
ほとんどこちらを見ようとしなかったあたりが最高だ。
は怒りのあまり、両手足をつかって目の前の扉をドンガンぶん殴った。
「出て来いコラー、無視すんな!」
それでも反応はない。
うるさい、と怒りもしない。
ノブに手をかけてみたが、鍵がかかっていた。
大した徹底っぷりだ。
扉を蹴破ってやろうかな、とも思ったが、ますます彼の機嫌を損ねそうなのでやめておいた。
はため息をついて、仕方なくアレンの部屋の前から離れていった。
扉の向こうが静かになったので、アレンはますます腹立たしいと思った。
にしては、諦めがよすぎる。
ただでさえ今日という日は気分が沈んでしまうというのに、なんて仕打ちだ。
しかしこれでよかったのだと、アレンは自分自身に言い聞かせた。
乱暴にコートを脱ぎ捨てて、ベッドの上に放り出す。
胸の中が暗く、ゆるく、切なく淀んでいた。
誰にも会いたくない気分だった。
特に、には。
「頼むから放っておいてくださいよ……」
しかしその願いは当然の如く、裏切られた。
静かな室内に響く、ノック音。
アレンは目を閉じて眉をひそめた。
短い吐息をついて、そこでやっとその不審さに気がつく。
ノック音が聞こえてきたのが、扉のほうからではなかったのだ。
アレンは瞳を開いて、音のしたほうを振り返った。
そして絶句。
寒気に曇ったガラスが、円形に拭われている。
その向こうに。
窓の外に、の笑顔があった。
驚きのあまり硬直しているアレンの目の前で、彼女はまたガラス窓を叩いた。
声はよく聞こえないが、どうやら「開けてー」と言っているようだ。
アレンはなんとか自分を取り戻すと、慌てて足を進めて、乱暴に窓を開けた。
驚きのあまりアレンの頭から抜けていたのだが、この窓は外開きだった。
は小さな悲鳴をあげ、上半身を逸らして、ガラスとの直撃を避けた。
「あっぶないなぁ!」
「危ないのはそっちのほうです!」
アレンは遠慮なく怒鳴った。
「なんてところから来るんですか!ここが何階かわかってるんですか!?」
はっきり言ってアレンの部屋のある階は高い。
いくらエクソシストでも、落ちたら怪我ではすまないだろう。
それなのには平然と言う。
「私にはあんたをパーティーに連行するっていう使命があるの。このくらいどうってことないよ」
「だからって……!」
「それより中に入れてくれない?寒くて死にそう」
吹きすさぶ寒風に晒されて、は肩をすくめた。
そして部屋の中に入るための手がかりにと、そこに立っていたアレンの首に腕をまわしてきた。
アレンはぎょっとして反射的に突き放しそうとしたが、彼女の背後が絶壁であることに気づいて、思いとどまる。
仕方ないからの腰を抱いて、室内に引っ張りあげてやった。
は何の他意もなく「ありがとう」と言ったが、アレンは自分の頬が熱を持っていることを自覚していたので彼女に背を向けた。
そのまま扉まで行って、大きく開いてやる。
「さぁ、出て行ってください」
「イキナリそれ?つれないにもほどがあるよ」
まんまと部屋へと入り込むことに成功したは、腕を組んでアレンを睨みつけた。
「ねぇ、いいじゃない。行こうよパーティー」
「お断りします」
「絶対楽しいって!今日のためにその身を犠牲にした七面鳥とか、キリスト様のネームプレートの乗った誕生日ケーキとかが食べられちゃうんだよ!」
「興味ありません」
「だったら、珍品ばっかが景品のビンゴゲームとか、クリームパイのぶつけ合いゲームとかは?」
「僕の不戦勝ということで」
「じゃあこれならどう!?サンタの格好をした皆の乙女が、あなたに愛のプレゼントを届けます!!」
「そんなおぞましいもの、お気持ちですら結構です」
「あーもう!わがままだなアレンは!!」
は憤然と拳を握って叫んだが、アレンは無視した。
脱ぎ捨てていたコートをハンガーにかけて、衣装棚にしまう。
「何を言われても行く気はありませんよ」
着替えを引っ張り出しながら、アレンは淡々と言った。
「いいから僕のことは放っておいてください」
「どうして?」
部屋の中央からの声が訊く。
アレンは振り返らない。
そう、いつだって僕は彼女の瞳が怖いんだ。
本当の心にしか繋がらない、その眼差しが怖いんだ。
「……とてもパーティーを楽しめる気分じゃないんです」
「そんなの」
「お願いだから」
アレンは声に一切感情を交えずに、静かに告げた。
「不用意に君を傷つける前に、出て行ってください」
クリスマスという日はアレンにとって特別だった。
父と呼べる唯一の人と出会った日。
そして産まれた日として言祝がれた日。
彼を失ってからは、その喪失感を否応もなく感じさせられる日。
胸が痺れるように痛かった。
切なくて、哀しくて、愛おしかった。
こんな感情を抱いていても、他の誰の前でも、アレンは笑える自信があった。
いつもと変わらない態度で、笑顔を浮かべることができるだろう。
でも無理だ。
の前でだけは無理なんだ。
彼女はどこまでも僕を素直にさせてしまうから、それがひどく心地良い時もあるけれど、今はきっと傷つけてしまう。
哀しくて淋しいと、その温もりを自分勝手に求めてしまう。
彼女はそれを許してくれるかもしれないけれど、アレンはそんな自分自身が許せなかった。
は沈黙した。
向けられた自分の背に彼女が何を思っているかは、アレンにはわからなかった。
怒ったのかもしれない。
それでも傷つけるよりはマシだった。
「でも……っ」
次に聞こえてきたの声は、彼女らしからぬことに、切羽詰った響きを持っていた。
「でも、それでも大切な日だったのなら独りになろうとしないでよ。今はもう哀しいかもしれないけれど、独りじゃないのなら、みんなと一緒なら、また笑えるかもしれないじゃない……っ」
アレンは目を見張って振り返った。
の言葉は、あまりにアレンの胸の内を突いていた。
どうして彼女が。
出会った金の瞳は、自分の発した言葉が信じられないかのように、大きく見開かれていた。
しばらく二人とも何も言えなかった。
呼吸すら凍ってしまいそうなほどの静寂が、室内を支配する。
アレンはようやく息を吐いて、呟いた。
「……知ってるんですか?」
僕の過去を。
それとなく話したことはあるが、ここまで核心的なことをアレンは彼女に言った覚えがなかった。
は一度目を伏せて、けれどすぐに、真っ直ぐアレンを見つめた。
「コムイ室長がティムの映像記録を見ているときに、たまたま居合わせたの」
自分の非を認めたは、とても素直で、潔かった。
「勝手に見てごめん。それと……」
は少し微笑んだ。
哀しそうに見えるのは、アレンの気のせいだろうか。
「私、無神経なこと言ったよね。そういう日だからこそ、独りでいたいんだよね」
「……………………」
「ごめんね」
そこではいつものように、にこりと笑った。
「わかった。みんなには私からうまく伝えておくから、気にしなくていいよ」
「……」
「でも、ごめん。ごめんね。困らせたついでにもうひとつだけ」
それが無神経で自分勝手な言葉だと、彼女は思っているようだった。
途方もない罪悪感を殺して、それでもは微笑んだ。
きっと、アレンにもそうであってほしいという願いを込めて。
「メリークリスマス、アレン!」
それだけを言い残して、はアレンの傍をすり抜けた。
駆ける靴音。
扉が閉まる。
走り去った少女を追うように、アレンは振り返った。
「……っ、!」
呼んだ先に、彼女はもういなかった。
手を伸ばしても、触れるのは冷たい扉板だけ。
凍てつくような室内にアレンはただ独りだった。
ティムキャンピーもいない。
きっとについて行ってしまったのだろう。
その温もりを求めて。
アレンは目を閉じて拳を握った。
の後を、何の躊躇いもなく追うことのできるゴーレムが羨ましくて仕方がなかった。
けれど、だったら僕には何が出来る?
心を告げることのできる言葉を持った僕には。
金の少女の笑顔が瞼の裏から消えない。
その表情に含まれた哀しみを消したくて、アレンは瞳を開いた。
パーティー会場の入り口で、を探していたアレンを真っ先に見つけたのはラビだった。
彼は豪華な料理のずらりと並んだテーブルの前で、骨付きの肉をかじっていた。
「うわーアレンじゃねぇか、どうしたんさ!が『あの腹黒魔王め。ご馳走を一人で食べ尽すと豪語しやがったから、正義の名の下に退治してきた!』とか言ってたのに」
「…………そんなこと言ったんですか、は」
「ああ。中庭の地中深くに埋めてきたからパーティーには来られない、ざまぁみろ!って、こんな感じに高笑いを」
の真似をして高らかに笑うラビを見て、アレンは一瞬、本気で回れ右をして帰りたくなった。
しかし何とか堪える。
来る気のなかったパーティー会場に足を向けたのは、それなりの目的があるからだ。
「……それで、そのはどこにいるんです?」
「アイツなら今ちょっと準備で……、それよりせっかく来たんだから食え食え!!」
ラビは笑顔でそう言って、アレンにどさどさとご馳走の盛られた皿を手渡した。
そこには様々な国の料理が用意されていて、アレンは目を見張った。
ラビによると、それぞれ故郷の違う団員たちのために、ジェリーたちが研究を重ねて作ってくれたそうだ。
見渡してみると、会場のそこここには花が飾られていて綺麗だし、照明はいつもよりオレンジを帯びていてクリスマスを演出している。
中央には大きなツリーが据えられていて、色とりどりのオーナメントと、何を間違えたのか、願い事の書かれた短冊が飾れていた。
しかしアレンが最も驚いたのは、参加者の多さだった。
任務でいない者を差し引いたら、ほとんどの団員が出席しているのではないだろうか。
「すごいですね……。こんなにたくさん」
「だろ?」
ラビは肉の骨を片手でもてあそびながら笑った。
「が駆け回ったんさ。せっかくだから、って」
あぁ確かにそんなことを言っていたな、と思って、アレンは少し微笑んだ。
しかし彼女が自分のところに来た理由を思い出して、途端に恨めしくなる。
思わず半眼でラビを睨みつけた。
「そのくせに、僕のところには罰ゲームで来たんですね。しかも君に言われて」
「ああ、だってそうしなきゃアイツずっと迷ってただろうからさ」
ラビはアレンと肩を組んで、その手にあった皿から、ひょいとエビフライを奪い取った。
「何だか誘いにくそうにしてたから、気を遣ってやったんさー」
「……………………」
「うれしかっただろ?」
間近でにんまり笑うラビの顔を、アレンは思わず押しのけた。
「冗談じゃありませんよ」
そんなこと、決まってる。
は迷って、迷って迷って。
最終的にはラビにせっつかれて、それでも自分を誘いに来てくれたらしい。
本格的にに会わなくては、と思って、アレンはラビに向き直った。
「ラビ。はどこです?僕はあの人に用事が……」
そのとき会場がざわめいた。
周りの視線につられて、首を巡らすと、そこにはステージが用意されていていた。
そしてスポットライトに照らされてその上に立っていたのは、紛れもなくだった。
「おっ!来た来た!!」
嬉しそうにラビが言ったが、アレンは言葉を失っていた。
視線の先にいるが、なんとも奇妙な格好をしていたからだ。
波打つ綺麗な金髪を背に流し、白いボアの縁取りの、赤い帽子を被っている。
先端は柔らかく尖っていて、丸いボンボンがついていた。
つまり世界で有名なサンタクロースの帽子だ。
それだけならわかる。なんせ今はクリスマスパーティーの真っ最中なのだから、余興でそういう格好をすることもあるだろう。
しかし問題は服のほうだった。
サンタを意識した、赤と白の温かそうなものではあったが、袖がなかった。
胸元は大きく開いていて素肌が見えている。
下はスカートで、その丈は彼女が普段着ている団服よりも短かった。
何と言うか……意識的に肌を見せようとがんばった服だったのだ。
これがまた良いのか悪いのかわからないが、にはそれがよく似合っていた。
けれど一応、彼女もこの格好は恥ずかしいらしい。
盛大に顔を赤くして、しかしそれを悟られるのは悔しいらしく、背筋をぴんと伸ばして立っている。
白いロングブーツに覆われた長い足が、ガッとステージの中央に突き立てられた。
突然現れた露出狂みたいなサンタのコスプレをした彼女を、会場の団員たちは驚いたり、顔を赤くしたり、手を叩いたりして見守っていた。
そのざわめきを打ち消すかのように、は片手に持ったマイクに向かって言った。
『えー皆さん本日はよくも集まってくれましたねアリガトウ!おかげで私は羞恥心に殺されそうです!ちくしょー丈短いって、スースーする!!』
どうしても気になるのかスカートの裾を押さえながら、ヤケクソ気味には続ける。
『とりあえず言い訳をさせてください!私は何も好きでこんな、こーんな変態ちっくな格好をしてるんじゃありません!これには深いワケがあってですね、実はラビのヤツが!!』
そこでは、ギッときつい視線でラビを睨みつけた。
人々はつられてそちらを振り返ったが、彼が何か言う前に、が絶叫した。
『ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!』
それは素晴らしい大音声で、声が割れてマイクが嫌な音を出したが、は構わずに叫んだ。
『アレン!何でいるの!?』
彼女が信じられないとばかりに言ったので、皆の注目はラビから隣のアレンに移った。
両手にご馳走を抱えたままだったアレンは、面倒な事態に陥ったことをかなり正確に悟っていた。
思い切り眉をひそめてやる。
「僕がいたら悪いんですか」
『え、なっ、いや悪くない!悪くないよ、むしろ嬉しいんだけど!!』
「え……」
『いや、やっぱダメだ!ねぇちょっとラビ!アレン来てるじゃない、この場合どうなるの!?』
「…………どういうことですか」
アレンはなんとなく想像はついていたが、一応ラビにそう訊いた。
彼は大皿料理を頬張りながら、あっさりと答える。
「あーつまりこれはだなぁ。アレンをパーティーに引っ張ってこれなかったから、かわりにミニスカサンタで今年しでかした悪行の数々を告白しろっていう、オレ提案のナイスな罰ゲームなわけさ!」
やっぱり。
そう思ってアレンはうなだれた。
つまりのあの奇妙な格好は、ラビの趣味だ。
アレンには理解できない、嫌な趣味だ。
「に何て格好させるのよ、ラビ!!」
甲高い怒鳴り声に振り向くと、そこにはリナリーが仁王立ちになっていた。
顔は真っ赤で、大切なが汚されたとでも言いた気な様子だ。
しかしラビは動じなかった。
「残念さリナリー。これはアイツとオレの!男と男との約束なんさ!!」
『誰が男だコラー!!』
遠くからマイクなしでも届くような大声でが訴えたが、ラビは口元に両手を添えて叫んだ。
「安心しろ、見た目だけは美少女さ!いいからホラ、登場のところからやり直し!オレの教えた通りにしないとダメっつたろ!!」
『何でよ!アレンが来てるのならいいじゃない!こんな恥ずかしい格好であんなイタい罰ゲームをする理由はない!!』
言い合う二人を見て、アレンは抱えていたご馳走をすべてテーブルの上に戻した。
「やめてください、二人とも。僕のせいで騒ぐのはそれまでです」
「アレン!これはオレたち二人の問題なんさ!」
『そうだそうだー!』
つい先刻まで口喧嘩をしていたくせに、そんな息のあった反論されては、アレンとしてはおもしろくない。
思わずその銀灰色の瞳をスッと細めた。
「………………そうですか、だったらせいぜい仲良く争ってください。僕は帰ります」
『え、ちょ……待ってよ!』
「つーか、そんなすぐに帰るって、オマエここに何しに来たんさ」
ラビに不思議そうに訊かれて、アレンは肩越しに彼を返り見た。
「少なくともパーティーに出るためじゃありません」
「じゃあ何さ?」
アレンはどう答えたものかと一瞬迷ったが、何か言う前にが叫んだ。
『あーもう、わかったよ!文句言わずにやればいいんでしょ!?どうせアレンは私の誘いに乗って来てくれたんじゃないんだし、罰ゲームはちゃんとこなさなきゃいけないし!!』
ヤケなったようにそう言って、はアレンをにらみつけた。
『あんたのせいでこんな目にあうんだからね、帰るだなんて許さない!せいぜいそこで乙女の散りざまを見ていろ!!』
強い調子でそう言い置いて、彼女はステージの裏に戻っていった。
アレンはその背を見送って、ため息をつく。
あんな剣幕で言われては、なんとも帰りにくいではないか。
どうしても彼女は自分にここにいてほしいらしい。
どうやら先刻うっかりと言っていた、「来てくれて嬉しい」というのは本音のようだ。
「アレン、顔がニヤけてるぜ?」
怪訝そうなラビの声に、アレンは慌てて口元を隠した。
「気のせいですよ」
平然とそう言ったが、笑みはどうにも消えてくれそうになかった。
ジロジロ見てくるラビをかわし続けるのも時間の問題だ。
しかしそうこうしているうちにパーティー会場に奇妙な音楽が流れ始めた。
何と言うか、無駄に明るい、アップテンポなメロディーだ。
大音量のそれにアレンもラビも意識を持っていかれる。
当然、会場にいる者たちもだ。
続いて聞こえてきたのは恐ろしいまでにヤケクソな歌声だった。
『きょっおは何の日、気になる日ー!年に一度のクリスマスー!キリスト様のたんじょおっびー!“えっサンタさんってパパなの?だってママがキスしてたもの!”そんなのただの浮気現場さ、子供の夢を壊すなよー!!』
何と感想を述べていいのやら、頭を抱えて考え込んでしまうような歌を歌いながら、が再びステージに現れた。
ちなみに奇妙な振り付けつきで。
『“ち……っ、ちがうのよ!ママはパパとは別れて、こちらのサンタさんと結婚するつもりなの!“プレゼントは離婚届けー!必死のママを止めないでー!嘘つくなとか言わないでー!子供らしく納得しましょう、サンタクロースは本当にいるんだからー!!』
「何ですかこの可哀想な歌!」
アレンは思わず青くなってそう言ったが、ラビは爆笑していて答えてくれない。
はステージの中央まで踊りながらやってくると、身軽に一回転、意味のわからないポーズをびしりと決めた。
『メリークリスマス!!』
そう言い放った彼女の顔は真っ赤で、激しく不愉快そうだったから、ラビの駄目出しが入る。
「ばっか、笑え!スマイル0円をなめてんのか!客商売の基本だ、レッツゴースマイル!!」
『この……っ、馬鹿ウサギ!あとで世にも面白い目にあわせてやるからね!!』
は超低音でそう叫んだが、ラビは取り合わなかった。
「口ごたえするんならいいさ。ハイ、もう一回やり直し!」
『スミマセンでした、ラビ監督ー!!』
は、それはもう土下座かと思うくらいの勢いで頭を下げた。
涙目で恥ずかしさのあまりブルブル震えているが、ラビの注文通り、表情だけは笑顔だ。
……はっきり言って、ちょっと怖い。
アレンはめずらしいことにに同情してしまったが、周りの皆は彼女の晴れ舞台を結構楽しんでいた。
もともと老若男女殺しと謳われるだ。
その人気ゆえに騒ぎはやし立てられて、どうにも引っ込みがつかない状況になっていた。
は諦めたのか、腹をくくったのか、とにかく開き直ったように片手を振り上げた。
『よーし盛り上がってきたね、皆なんて楽しそうなのチクショウやってらんないよ、せいぜい闇夜は気をつけてね、じゃあのどっきり大告白いきまーす!』
「あははははははは!ちゃん最高!!」
けらけら笑っているのはコムイで、片手にはワイングラスが持たれていた。
どうやらすでに酔っているらしい。
『まずは被害ファイルナンバー1!コムイ室長!!』
「ええ?ボク?何かなー、あはははは!!」
『リナリーの手作りのお菓子、いつも室長のぶんまで食べ尽してたのは私でーす!』
「え……」
『寝ぼけた室長に、コーヒーだと偽って大量の黒酢を飲ませたこともあります!!』
「な……」
『室長の“リナリー愛のメモリアルアルバム”から無断で写真をちょろまかして、バク支部長に流してたのも私です!!』
「……………………」
『ちなみにその報酬が黒酢でした!でも意外とキツかったんで室長にあげちゃいました!だってリナリーの写真くれたの室長だもんね!わー健康にもいいし、ナイス判断だよ私!!』
バリン……!
何かが砕け散る音が聞こえた。
一同が振り返ると、そこにはワイングラスを素手で握りつぶしたコムイが立っていた。
逆光で眼鏡が光っているため、その表情はわからない。
さらにが言う。
『そしてこの間、とうとうリナリーにプロポーズしちゃいました!返事はもちろんオッケーです!というわけで今日からお義兄さんって呼ぶね、コムイ室長!!』
「………………………………ちゃん」
おどろおどろしい声がコムイから発せられた。
彼の手は眼鏡をかけなおそうと動いているが、それがブルブル震えているためうまくいかない。
彼は全身から怒りなのか絶望なのか、とりあえず凄まじい激情を放っていた。
「ちちちちちっちちょっと、話があるんだけど、一緒に来てくれるかなぁ……!?」
『え、そんなもう兄弟水入らずの語らいですかお義兄さん!!』
「誰がお義兄さんだこのデンジャラス娘がーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
コムイは全力で叫ぶと、どこからともなく巨大なマシンガンを取り出した。
そして何のためらいもなくその銃口をに向け、発砲。
次の瞬間、ステージは蜂の巣を突いたような惨状になっていた。
数え切れないほどの銃痕、衝撃にめくれあがった床や壁。
しかしの姿はもうそこにはなかった。
彼女は一瞬のうちに、ステージを照らす照明器具の上に避難していた。
『うわー、過激な感情表現だなぁ。婿試し?』
「そこかーーーーーーーー!!!!」
コムイは奇声を発しながら、再び銃口をに向ける。
発砲音が連続して続き、の立つ照明器具に炸裂。
がその上を猫のような身軽さで駆けるから、追いかける銃弾が端から照明器具が破壊していき、それらは次々と床に落ちた。
轟音が鳴り響き、もうもうと煙があがる。
パーティ会場は一瞬にして戦場と化したのだ。
「兄さん、やめて!!」
を救うためにリナリーが叫んだが、妹を奪われた怒りと悲しみに我を失ったコムイには届かない。
しかも科学班の皆までを狙いだしたのだから、さらに状況は悪化した。
「みんな!どうして兄さんを止めずに味方するの!?」
リナリーは涙ながらに訴えたが、科学班の面々は断固として戦う姿勢を崩さなかった。
「リナリー、これは正義の報復だ!」
「そうだそうだ!が室長にしでかしたイタズラのせいで、俺たちまで被害にあったんだ!!」
「ダメージを受けた室長が使いものにならなくて、どれだけ仕事が滞ったか!!」
「それに俺たちは、リナリーの手作りお菓子を奪ったのは誰だだの、コーヒーと黒酢を入れ替えたのはお前かだの、アルバムから写真を盗みやがってコノヤロウだの、あらぬ疑いをさんざんかけられたんだ!!」
「まさに二次災害!!」
科学班の者たちはそれぞれ復讐心をみなぎらせて拳を握った。
「今こそ諸悪の根源を断つ時だ!立ち上がれ!!」
「インテリの底力を見せてやる!!」
「コムイ室長に続けー!!」
飛び交う怒号。
響き渡る破壊音。
そしてアレンのため息とラビの笑い声。
「聖なる夜までこれですか……」
「あははははははははは!さすがは!期待通りやらかしてくれるさ!!」
本気で帰りたくなっているアレンと、腹を抱えて爆笑しているラビの目の前で、は床に降り立った。
次々と飛んでくる銃弾、フォークやナイフ、食べ終わった皿や飾り付けのオーナメントを器用に避けながら
はそれでもマイクに言う。
『みんなまだまだはじまったばかりだよ?そんなに興奮しないでよ。とゆーわけで被害ファイルナンバー2!ラビ!!』
「え、なっ、オレ!?」
高らかに名前を呼ばれてラビは驚きの声をあげる。
この罰ゲームを提案したのは彼であり、それゆえに自分がターゲットになるとは欠片も考えていなかったらしい。
しかし、にそんな甘さは通用しなかった。
『ラビのエロ本の隠し場所を、ブックマンのじーさんに報告したのは私です!』
「な……!」
『ちなみに豆乳に釣られました!目の前にそんな素敵な健康飲料を出されたら、ラビへの愛は木っ端微塵です!』
「おま……っ、あの後オレがどれだけひどい仕打ちを受けたか……!」
『ぜんぶ燃やされたよね!さらに3日ほど正座で説教されてたね!ちゃんと見てたよ物陰から、その愉快な光景を!!』
「……………………」
先刻までの笑顔が嘘のように、ラビから一切の表情が消えた。
その右手が無造作に、足のフォルスターにおさめられている己の武器を掴む。
一瞬後には、それは巨大な槌へと変化していた。
「コムイ……。オレも加勢するさ」
普段の彼からは想像できないほど静かな声でそう言って、容赦なく槌を振り下ろす。
「業火灰燼!火判!!」
怨念が最大級に込められたその言葉が、炎の蛇を呼び出した。
火炎はうねりながらに迫り、その体を包み込む。
しかし刹那に閃いた黒い閃光が、それを跡形もなく消し飛ばした。
『いくらクリスマスだからってはちゃけすぎだよラビ。火の用心、消火活動完了!』
それよりこんなことでイノセンスを使うなよ、とアレンは言ってやりたかった。
それでもラビの憎悪は深いらしく、再び炎がを襲う。
「燃やされたオレのエロ本たちの恨み!オマエも焼かれてしまえー!!」
『あはは、こっちこっち!』
は楽しそうに笑いながらテーブルの上に飛び乗った。
ラビの火判がそれを追い、塊となって襲い掛かる。
は身軽に振り返ると、黒い閃光を放って、その炎を散らした。
小さくなった火はテーブルの上にあったクリスマスケーキ、そこに飾られた蝋燭に引火。
見事にそれらのすべてに炎が灯ったのである。
人々は歓声をあげたが、コムイとラビ、そして科学班の面々の攻撃は続く。
そしての声も。
『さーて、盛り上がってきたところで被害ファイルナンバー3!神田!!』
テーブルの上を走りながら言うに、今まで我関せずを貫いていた神田が顔をあげた。
彼は無理矢理に引っ張って来られたのだろう、それまで不機嫌そうに黙々と蕎麦を食べていた。
そんな彼には憂いの表情を見せる。
『神田のキューティクル黒髪は私のお気に入りですが!たまには髪型を変えてほしいのが本音です!』
「……知るか」
『そんなわけでここ最近、神田が寝ている間に部屋に忍び込んで、髪をいろいろいじってます!』
「………………なんだと?」
『今日はおだんごヘアーで、昨日が三つ編みで、その前がツインテールでした!』
そこいる者達は一斉にそれを想像したのだろう、何とも言えない生温かい雰囲気が会場全体に広がった。
は今までの日々を思い出しているのか、無駄に瞳を潤ませる。
『おぞましいほどストレートな神田の髪にも私はめげませんでした!そしてついにやり遂げたのです!!』
彼女はテーブルの上で勢いよく足を止めると、懐から一枚の写真を取り出した。
『見よ!神田、禁断の縦ロールバージョン、リボンつき!!』
瞬間、それは真っ二つに斬り裂かれていた。
愛しの蕎麦を放り出して、神田は超速でへと斬りかかっていたのだ。
あまりの剣戟の鋭さに、の立っていたテーブルまでもが粉々に破壊される。
神田は斬り裂いた写真を容赦なく踏みつけると、刃のような瞳をあげた。
平然と床の上に避難していたを睨みつける。
「テメェ……!どうりで最近、髪の調子がおかしいと思ったぜ……!」
『うふふユウちゃんってば可愛いなぁ、フリルいっぱいのリボンつけちゃって!』
「まだ持ってやがるのか!!」
懐から写真を何枚も取り出してくるに、神田が遠慮をする理由はなかった。
「災厄将来!」
決然と『六幻』を構える神田に、コムイとラビ、科学班の者たちも心をひとつにした。
「界蟲『一幻』!」
「喰らえ!火判!」
「これで終わりだー!!」
『え、ちょ……!みんなマジだなぁ!!』
迸る殺気の数々に、さすがのも笑顔を消した。
マイクを放り出して、胸元のロザリオを高速展開。
黒い光が巨大な盾の形を成した。
凄まじい怨念がそこに殺到し、炸裂する。
その一瞬前。
白い手が、に迫る全ての攻撃を打ち落とした。
「そこまでです」
自分をかばうようにして降り立った、白髪の少年の後ろ姿を見て、は目を見張った。
驚きは他の誰もが同じだったようで、会場は一瞬、静寂に包まれた。
「アレン……」
が名前を呼ぶと、彼は振り返った。
その顔は大変不本意そうに歪められていた。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど……、まさかここまでひどいとは。さすがです。僕の完敗です」
「え、は、何?どういうこと?」
いつもなら率先してに挑みかかるアレンが自分を助けるという、絶対に有り得ない事態が起こっていた。
は本気で困惑して、瞬く。
アレンは吐息をついた。
「僕は」
アレンの銀の瞳が、の金の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「君に言いたいことがあってここに来たんです。だから、それを聞いてもらう前にみんなに殺られてもらっては困るんですよ」
「……だから、たすけてくれるの?」
「別に君のためじゃありません。これは僕の事情です。でも……、ああそうですね」
アレンはふいに微笑んだ。
唇を吊り上げて、不敵に瞳を光らせる。
「せっかくだから、これは僕からのクリスマスプレゼントということで」
「……………………」
「今日だけ特別です、」
目を見張るから、彼女を狙う者たちへとアレンは視線を滑らせた。
そして閃くようにして笑った。
「僕が君を守ってあげる」
その笑顔があまりにも楽しそうだったから、そこにいた全員が彼に目を奪われた。
驚きで染まる会場に、快活な笑い声が響き渡る。
声の主は当然の如く、アレンをここまで楽しげに微笑ませた少女だった。
「あはは、変なクリスマスプレゼント!」
「何か文句でもあるんですか?」
「それより物がほしいなー、なんて」
「厚かましい……」
「嘘だよ。うれしい」
は言いながら、アレンの横に立った。
「でもごめんね。守られるのは性に合わないんだ。だから」
彼女は言葉の続きを、アレンの隣でイノセンスを発動することで示した。
どうやら一緒に立ち向かう気らしい。
アレンは短く声を立てて笑った。
「なるほど。でもそれだと向かうところ敵なしですよ?」
にやりと不敵に微笑みあう二人に、コムイやラビ、神田たちは盛大に眉を吊り上げた。
「へーえ。アレンくんはそっちの味方かい」
「オマエとは戦いたくなかったさ、アレン!」
「いいぜ、バカ女もろとも叩き斬ってやる……!」
「「やれるものなら!」」
アレンとは同時に言って、強く床を蹴った。
それからしばらく、会場から笑い声が消えることはなかったのだった。
メイン連載の進行具合など完全無視のクリスマス夢です。
「甘く〜!甘くなれ〜!」と念じながら書いたせいか、異様に長くなってしまいました。
しかし前編はちっとも甘くないですね!(汗)
後半も言えるほど甘くはないのですが、よろしければどうぞ。
ちなみにヒロインが歌っていたあの可哀想なクリスマスソングは、ラビとヒロインがお遊びで作ったものです。
|