憧憬のように胸が燃える。
焦燥のように心が逸る。
この感情の名を僕は知らない。
もう既成の言葉では気持ちが伝えきれないんだ。
● Shining star light ●
どのくらい抱擁を交わしていたのだろう。
が微かに身じろぎをしたから、アレンは何だかハッとして、それから固まった。
目を開けてみると足元に雪がそれなりに積もっていたから、は随分長い間じっとしていてくれたみたいだ。
けれどここからどうすれば……。
たぶんは強く抱きしめられ続けて辛いのだろうが、何も言わない。
アレンのコートを掴む手にだんだん力がこもっていっているが、それだけだ。
ああ、どうしよう。
離したくないんだけど、このままじゃ。
「……ちょっと」
アレンは思わず声を出した。
こんな何も言わずにガマンしていてくれるなんて、いじらしいけど、微笑みたくなるけど、うっかり抱き殺してしまいそうになるじゃないか。
はぼそりと応えた。
「なに」
「……………………何か言ってくださいよ」
離せとか、苦しいとか、普段なら平気で言うくせに。
どうして。
するとが声をあげた。
「何かって何!」
「ええ?だから、えっと……いつもみたいに」
「いつもみたいに!?」
「あ、もしかして苦しくて喋りにくかったり……」
「それは全然!!」
アレンの言葉を遮ると同時に、掴んでくるの手がぎゅっと握られた。
これはどうやら図星らしい。
はいじらしいだけでなく、相変わらずの意地っ張りのようだ。
とにかくアレンは慌てた動作での背をぽんぽんとした。
「あ、あの。元凶の僕が言うのも何なんですけど。このままじゃ、死ぬと思うから」
「ええっ、それは嫌だな」
「僕も嫌です」
アレンは頷いて、それから続ける。
「な、何とかするから。もちょっと」
「わかった。せーのね。せーので一緒に脱力しよう!」
「脱力って……」
「ハイ!せーのっ」
の声にあわせてアレンは腕の力を抜いた。
何だか言うことを聞かない感じだったけれど、がんばった。
そうすればの顔が見えた。
視線が合う。
金色の瞳に苦笑が浮かんだ。
「何かあんまり変わんないね」
二人にできた距離はせいぜい拳ひとつ分で、やっぱりまだ随分近かった。
けれどアレンにしてみればこれでも遠い。
本当は少しも離れたくなかったのだ。
けれどこれ以上やるとが死にそうだからやめておく。
それだけだ。
「ひとつ言っておくけど」
は大きく息を吸い終えると、軽く首を傾けた。
「普通の女の子は、こんな強く抱きしめられたら壊れると思うよ。彼女たちはナイーブかつデリケートな存在なんだから!」
「………………じゃあ君は何なの」
「私は勇者だから、腹黒魔王アレンには負けないだけ。本番はもっとガラス細工を扱うみたいにしてあげないと、駄目だからね」
本番って何だ。
先生みたいな顔でそう言ってくるをアレンは半眼で見やった。
「相手に大丈夫なら、それでいいよ」
「だから、私じゃないと無理だって」
「だから、それでいいよ」
そう言い切ってやるとは不審そうな顔をした。
それから何か言おうとして、途中で首を振る。
「あぁダメダメ。これじゃいつもと同じでまた言い合いになっちゃう。今日はそういうのなしって決めてるんだから」
「クリスマスだから?」
「そう」
「………………誕生日だから?」
思い切って訊いてみると、はわずかに目を見張った。
けれどすぐに視線を逸らす。
抱きしめるアレンの袖を握る指先にまた力が入る。
伏せた瞼が何だかちょっとだけ赤いみたいだ。
「………………そう。キリスト様のね」
苦しまぎれにがそう言うものだから、アレンは思わず笑ってしまった。
「それ、去年も言ってたよね」
「今日一日は、私は敬虔な宗教者になるの」
「へぇ。だったら偽りは口にできないわけだ」
「………………………………そうだね。でも、だったら何も言わなきゃいいのよ」
「それって逃げてない?」
「………………っ」
反応が面白くて少しだけからかう調子で言ってみると、が唇を噛んだ。
綺麗な薄紅のそれに傷がついたら嫌だなと思って、アレンは口調を変える。
顔を逸らしたの側頭部に額を押し付けた。
「。僕は鈍感ではないし、馬鹿でもないつもりだよ」
「…………………………」
「と言うか、ここまでされて君の気持ちがわからないほどの愚か者でいたくはない」
「……………………変なの。アレンがそんなこと言うなんて」
「……そうかな」
「だって、私たちがこんな風に、極めて平和に友好的に話しているなんて奇跡に近いじゃない」
言われてアレンは考えてみた。
うん、確かに。
いつもどちらかが照れ隠しや何やらでケンカ腰になってしまうのだ。
さんざん言い合って、やり合って、最後には笑っていることがほとんどだけど。
こんな風に相手の言葉に、変な冗談やわざと冷たいフリをして応えないことは初めてかもしれない。
アレンは少し微笑んだ。
「いいんじゃないかな。こういうのも」
「クリスマスだし?」
「うん。ちょっとぐらい、いつもと違っても」
「うーん、そうだね。だって、その…………………………………誕生日だし」
目を逸らしたままが言うから、アレンは笑ってまた少し彼女を引き寄せた。
は抵抗せずにアレンの肩に頬を寄せる。
それから抱きしめるアレンに応えるように、腕を背にまわしてコートを掴んだ。
「そうだよね……。今日は12月25日だもんね」
は小さく呟いて、それからこちらの胸に額を押し付けた。
そっと抱き返されてアレンの鼓動が早くなる。
俯いた彼女の耳や首筋が見える。
ほんのり色付いたそれは寒さのせいだけだろうか。
「アレン。じゃあ私がちょっとくらい変でも、笑わないでいてくれる?」
アレンは何だか声が出なくて、小さく頷いた。
するとがますます抱きついてきたから目を見張る。
すごい。本当にいつもと違う。
何だろうコレ。
胸がいっぱいで苦しい。
「あの、さ。正直に言うと、どうしようかと思ったんだ」
「………………な、何が?」
「今日……、昨日からかな。本部に帰れないってわかったとき」
顔を見られたくないのか、はそれを隠すようにアレンに身を寄せていた。
声が近い。
金髪が頬をかすめる。
「せっかくのクリスマスなのに、アレンは私と二人っきりになっちゃったって」
走り続ける心臓をどうしようかと考えていたアレンは、そこで瞬いた。
意味がわからなくて少しの間固まる。
それから言った。
「は……?」
「だ、だから!クリスマスはアレンにとって特別な日なのに、私なんかと一緒にいるってどうなのって話!!」
「どうなの、って……」
「本部にいればみんなと笑って、楽しんで、きっと何かこう……上手くいえないけど淋しいみたいな気持ちにならなくっていいのに、それができなくなったんだよ!?もう本当にどうしようかと思ったよっ」
「へ、へぇ……」
そんなこと考えてたんだ、とアレンは思った。
でも確かに去年も言っていたはずだ。
アレンにとってクリスマスはどうにも複雑な日だった。
マナとの思い出の詰まりすぎていて、愛おしくも哀しい気分になる。
それを誰にも悟られたくなくて孤独のうちにいようとしたアレンに、は言ってくれた。
大切な日だったのならば独りになろうとしないで、今はもう哀しくても、みんなと一緒ならまた笑えるかもしれないと。
アレンはようやく気がついて言う。
「も、もしかして、クリスマスに本部に帰れなくてみんなと一緒に過ごすことができないから……」
一度息を吸ってから続けた。
「僕がまたマナとの思い出に落ちこむと思ったの?」
驚いた声でそう訊けば、の肩がわずかに揺れた。
顔は伏せてしまっているから見えないけれど、何だか居心地が悪そうだ。
否定したいような気配が伝わってきたが、彼女は唇を噛むと、別のことを口にした。
「今日は意地を張るのはやめよう。ケンカも駄目。だってクリスマス。クリスマスなんだから」
「何ブツブツ唱えてるんですか」
「ええ、そうですとも!アレンがまた一匹狼きどって部屋に閉じこもっちゃうんじゃないかと思ったのよ!!」
は半ばヤケになったように言い出した。
「去年みたいに、また独りみたいな顔をするんじゃないかって思った!それだけっ」
「それは……」
「このさんは、そんなの断じて許さないんだから!一緒にいる私を無視して、淋しいとか哀しいとか、そんなの……っ」
だんだんとの口調に勢いがなくなっていく。
ぽかんとしていたアレンはハッキリと彼女の肩が震えたのを見た。
「そんなの、駄目だよ。誕生日は笑ってなくちゃいけないんだ」
の指先がアレンのコートを強く握った。
「あなたの感情を否定する気はない……。けれど、それでも笑っていて欲しいと思った。どんなに俯いたって、最後にはどうか笑顔で……。これは私のワガママよ」
言葉の終わりだけ強く言って、は首を振る。
長い金髪が揺れる。
続きは何だか無理に明るい口調になった。
「誕生日っていうのは、生命を祝福する日だもの。産まれてきてくれたことに感謝して、大切な人たちと一緒に笑うの。間違っても独りになんかならない。みんなと過ごす、年に一度の最高の日なんだから!」
「………………………」
「そんな日が、あなたにはあるんだから」
「、君は……」
アレンは思わずの頭を引き寄せた。
胸が切なくなって目を伏せる。
何故なら気付いてしまったからだ。
には、誕生日がない。
過去を全て捨て去って別の人間になった彼女には、産まれた日など消えてしまったのだ。
例えがその日を覚えていても、誰にも語れない。
祝われることなど、絶対にありはしない。
きっと記憶だけが鮮明なのだろう。
産まれてきたことを言祝がれ、大切な人たちと共に過ごした優しい思い出だけが。
まだにも“誕生日”というものがあった頃の話。
だからこそ彼女は、アレンにここまでのことをしてくれたのかもしれなかった。
「去年はすごく嬉しかったんだ。あの日、あなたは確かに笑っていてくれたから」
笑んだ声では言ったけれど、アレンは何だか本当に切なくって目を閉じる。
泣き出したいような衝動があった。
同時に心は温もりに満たされていく。
「でも、今年はこんなことになっちゃったからさ。どうしようかと思った。誕生日に私なんかと二人っきりで、アレンは笑ってくれるんだろうかって」
「………………いつも強気ならしくないね」
「だから言ってるじゃない。正直に言うと、不安だったんだって。……普段なら絶対に言わないよ」
「今日はクリスマスだから、特別?」
はわずかに微笑んだようだった。
それからまた口を開いた。
「考え付く限りでやってみたんだ。ツリーの飾りつけはお約束でしょ?苺のケーキの買い忘れは本当にうっかりしてたけど、ご馳走もたくさん。でも、まだ足りない気がして」
「………………だから、ここに僕を連れてきたの?」
「…………………………」
「僕に“幸せなクリスマス”をプレゼントしてくれるために」
アレンがそう訊くと、が少しだけ身を離した。
黄金の双眸が銀灰色の瞳を見上げる。
薄紅の唇が苦笑めいた表情が浮かんだ。
「いつもの私なら絶対に許さないのにな。『他の何かに頼るもんか。“幸せなクリスマス”なんて、このさんが絶対無敵かつ、自分勝手に演出してやる!』って」
アレンは思わず声を出して笑った。
あまりにらしくて嬉しくなったのだ。
けれど今は少しいつもと違う彼女は自嘲めいた笑顔で肩をすくめてみせた。
「まぁ、それだけアレンが強敵に見えたんだよ」
「え。……そう、かな」
「だって本部に帰れないって聞いたときのアレンの顔!言葉では表現できないほどだったもの」
「………………………………」
それは。
たぶん、意味が違うのだけれど。
まさか“君と二人っきりのクリスマスになったことを気にしていただけだ”とは言えなくてアレンは黙り込んだ。
頬を染めて視線を落とす。
とにかくを不安にさせてしまったようなので、小さく呟く。
「ごめん……」
「謝られてもなぁ」
「でも、素直なはわかりやすくて助かるよ。今日……誕生日に、僕に笑って欲しかったんだって。だからこんなことをしたんだって、言ってくれたら」
そこでアレンは言葉に詰まった。
恥ずかしいから言わないでおこうかなとも思ったが、今日はクリスマスだから駄目だ。
嘘とか偽りは口にできない。
だからアレンはがんばった。
「その………………、う、嬉しい」
「…………………………」
「だ、だから!最初から言ってくれれば……っ」
「や、やだよ!」
「何で!」
「だってそんなの何だか強制してるみたいじゃない!どうせアレンは私に気を遣って、無理してだって笑うんだ!!」
「君相手にそんな面倒くさいことするもんか!いい加減わかってくださいよ、僕は君の前では無理しないし、できないんだって!!」
「で、でもやだ!何かやだ!私のワガママを押し付けるみたいでやだ!!」
「こんなのはワガママなんて言わない!気が付いてないのなら思い知らせてあげますよ!!」
アレンはそこまで思わずいつもの調子で言ってしまって、一度口を閉じる。
はぁと息を吐いて、を見つめる。
そして朱に染めた頬で告げた。
「去年も、今年だって、僕の笑顔は君のせいなんだよ」
間近で金の瞳が見開かれた。
アレンはこんなことを言うのは恥ずかしくて死にそうだったけれど、が先に素直になったのだから仕方がない。
逃げられないし、言わなければとも思った。
「どうしていまだに自分が元凶なんだって理解していないのかわからない。あれだけ僕を振り回しておいて、一方的に巻き込んでおいて、勝手に騒いでおいて、それで……っ」
唇が震えた。
胸が苦しい。
喉が張り付いて、少し泣きそうになっていることに気が付いた。
アレンは熱に潤んだ瞳を閉じた。
「、どうして。これだけたくさんの想いと温もりを与えておいて、どうして僕の笑顔が自分のせいだって気付かないの」
「………………………………」
「独りになろうとする僕の隣に、いつだっていてくれたくせに。馬鹿みたいに笑って、手を繋いでいてくれたくせに。意地を張って、それでもたくさん祝福の言葉をくれたくせに」
僕は君の優しさを、こんなにも思い知っているのに。
「今まで、僕は誕生日が怖かった」
の温もりを感じながら、アレンはそっと囁いた。
溢れ出す、心の声。
「哀しくて淋しくて、それを誰にも知られたくなくて。今日という日はいつも独りでいた。でも、本当は孤独になりたかったわけじゃない……」
独りでなんかいたくなかった。
もっとずっと哀しい。淋しくなる。
けれど誰かに縋ることもできなかった。
そんな弱さを見せられる人などおらず、また欲しくもない。
強くならなければ、と思った。
「マナとの思い出の詰まった誕生日を、暗い気持ちのまま終わらせたくはない。だから平気だって言えるようになろうって決めた。でも、……どうしようもなかったんだ。どうすればいいのかわからなくて。どうすれば笑えるのか、ずっと答えが見つからなくて………………」
アレンは目を開いた。
滲んだ涙が痛い。
それでもの瞳を見つめる。
「わからないまま、過ごしてきた。何年も後悔ばかりだった。マナといた頃はあんなに楽しかった日なのに、僕はただ辛い気持ちで、思い出に浸って、無為に過ごすことしか……」
「………………泣いていたの?」
真っ直ぐに見つめ合ったままが訊いた。
声は吐息のようだった。
アレンは少しだけ肩を揺らして、苦笑に似た表情を浮かべる。
「………………昔はね。子供だったから」
「今は、涙が見えなくなっただけ?」
切ない感情に金色の瞳が揺れていた。
の手がそっとアレンの頬に伸ばされる。
アレンはそれを捕らえて、優しく握った。
「あまり訊かないで。嘘をつきたくないけれど、……男が泣いていたと言うのはみっともない」
「女だって口にしたくない気持ちはわかるよ。けれどそれ自体がみっともないとは思わない」
は詰まるようにそう言ったけれど、すぐに目を伏せた。
「ううん、…………ごめんなさい。こんなこと訊いたりして」
は申し訳なさそうに睫毛を震わせて、頬に伸ばしていた手を引こうとした。
けれどアレンはそれを許さなかった。
捕らえていた手でぎゅっと握りこむ。
そして少しだけ笑った。
それはに切ない顔をして欲しくなかっただけだった。
「でも……、うん。たぶんそうなんだ。僕は……」
認めるには勇気が必要だった。
まだ鏡は真っ直ぐ見ることはできない。
自分の弱さと向き合って、勝てるかどうかわからない。
だからアレンはを一生懸命に見つめた。
「泣いて……、いたんだ。涙はもう出なくなっていたけれど。きっと、ずっと」
そうして精一杯の力で微笑んだ。
「今日という日を、君と過ごすようになるまでは」
は目を見張った。
光の色をした双眸が見つめ返してくる。
これはきっと力だ。
いつだって僕を照らしてくれる灯火。
胸を燃やす感情。
「どうしてなのかはよくわからない。君はマナじゃないし、僕も代わりを求めているわけじゃない。けれど……」
考えてみれば、何だかいつだっては遠まわしだった。
何気なく隣にいて、そっと気持ちを伝えてくれていた。
なんでもない顔をして、本当は必死にアレンを笑顔にしようとしてくれていたのだ。
アレンは片手でそっとの金髪を撫でた。
「ただ、嬉しかったんだ。気付かないほどさり気ない優しさも、照れ隠しの言い訳も、僕はとっくに見抜いてる。素直には何も言ってくれないけれど、わかってるよ」
そんなことは、とっくに。
「君はいつだって誰かのために一生懸命で、でもそれを知られるのが相手の重荷になると思っているから、わけのわからない言動で茶化そうとするんだ」
「ち、違……!」
「聖夜に嘘はつけないはずだよ」
「……………………っ」
「まぁ君が否定したところで、僕は勝手にそう思ってるから無駄だけど」
「何……それ……」
「いい加減、僕も思い知っているってこと」
アレンは穏やかに笑うと片手を引いて、自分のポケットに入れた。
「君は馬鹿で頑固で、あらゆる意味で非常識で、親しき仲には礼儀がなくて。でも傲慢なくらい温情がある。いつも自分勝手に他人のことばかりを想ってる」
「け、貶されてるのか、誉められてるのか……」
「だから、きっと僕は笑えるんだ」
微妙な顔をしたに、アレンは言った。
「君の馬鹿みたいな強さと、わかりにくい優しさに僕はいつも助けられてきた。心の底から、自然に笑うことができた。…………君じゃなきゃ無理だったと思うんだ」
だって素直に慰められても、どうしていいのかわからない。
慰められること事態が不甲斐ないし、気を遣わせたと思って落ち込んでしまう。
反対に放っておかれることは楽だ。
けれど、いつまでたっても嘘の笑顔しかアレンは浮かべることができなかっただろう。
これはだけができる魔法だった。
何気なく傍に寄り添って、さり気ない言葉でアレンを救ってくれた。
彼女が何でもない顔で手を繋いで、本当の笑顔を見せてくれたから。
だからアレンも微笑むことができた。
笑っていることができたのだ。
「。今日は12月25日だから、僕がちょっとくらい変なことを言っても笑わないでいてくれる?」
訊かなくてもいいことは知っていたけれど、アレンはそう囁いた。
は黙って頷いた。
先刻アレンがそうしたように。
それを嬉しく思って銀灰色の瞳を閉じる。
「ありがとう」
マナとの思い出は忘れない。
けれどもう涙は零れない。
その雫はひとつ残らずが拾って、確かな微笑みに変えてくれた。
だから、
「たくさんの祝福をありがとう。言葉を、温もりを、笑顔をありがとう。いつも傍にいてくれてありがとう。手を……」
アレンは目を開けて、の左手を握り返した。
「手を繋いでいてくれて、ありがとう」
言いながらアレンはポケットから片手を引き抜いた。
「“幸せなクリスマス”をありがとう」
手を伸ばして、に触れる。
指先に髪を絡める。
さらりとこぼれる金色。
そこに白い花飾りを挿し込む。
幾重にも重なった花びらが、の髪に咲いた。
そしてアレンは心からの笑顔を浮かべた。
「君がいてくれて本当に嬉しい。…………ありがとう、」
雪がゆっくりと降りてきて、世界をさらに染めていく。
闇色の空に金と銀が光る。
そして街を照らすイルミネーション。
そのどれよりも輝く金色の瞳が震えるように見開かれて、アレンを映した。
アレンは胸に溢れる温かい気持ちのまま、さらに微笑んだ。
するとはハッとしたように自分の頭に手をやる。
「ア、アレン……。これって……」
アレンは指先での髪に触れた。
「ほら、やっぱり似合う」
のサイドテールに差し込まれた白い花。
アレンが飾ったそれはまるで雪のようで、彼女の髪の色によく映えた。
「その花、クリスマス・ローズっていうんだって」
「………………どうしたの、これ」
「『希望の木』のことを教えてくれた女性の露店で買ったんだよ。さっきの赤い花……、ポインセチアだっけ?あれより君に似合うと思ったから」
真っ白な花弁がを彩っていた。
アレンは瞳を細めて彼女を見つめた。
とても温かい気分で、胸が少し痛いほどだ。
「………………っ」
視線の先では息を詰めた。
片手を胸の前で握り締め、睫毛を震わせる。
わずかに開かれた唇から白い息が吐かれて消えた。
その頬が薄く染まったのを見て、何だかアレンはどきりとした。
自身が花みたいだなと思った。
幾重にも重なった金色の花。
水々しくて、輝いていて、温もりを宿している。
綺麗だ。
かわいい。
わけもわからずそう考えて、少し俯いたの頬に手をかける。
乱暴ではないけれど、強引と言えるような強さで仰向かせた。
ずっと見ていたかった。
光みたいなその瞳を、ずっと向けていて欲しい。
自分だけに。
喉が張り付いていて痛い。
胸が張り裂けそうだ。
目眩がするようで、でも本当は惹かれるようにひたすら見つめている。
そんなアレンの様子には気付かないのか、ふいにが笑った。
ゆっくりと、温もりが広がるようだった。
まるで厳しい冬の後、ようやく咲いた春の花のように。
ふわりと微笑む。
「ありがとう、アレン」
それが彼女にあげたクリスマスローズのお礼だということが、アレンはしばらくわからなかった。
そんなことより先に首の後ろに手を入れて引き寄せる。
アレンはの額にキスをした。
唇で触れていく。
滑らかな肌の感触に、くらりとする。
いい匂いがした。甘いような。
そのまま唇を滑らせて、瞼に口付ける。
長い睫毛が驚いたように瞬いて、アレンに触れた。
その感覚。
「……………………」
ぴたりと動きを止めて、アレンは考える。
僕は今、何をした?
な、なにを……。
自覚した瞬間、アレンは全身が熱くなるのを感じた。
真っ赤になって体を強張らせる。
それからものすごい勢いでから離れた。
彼女がアレンのコートの掴んでいたから飛びずさることはできなかったけれど、それでも限界まで距離を取る。
「ご、ごめ……っ」
全力で赤面しながらアレンは口元を手で覆った。
がこちらを見つめていた。
どうしよう。
混乱してよくわからない。
だって、あんなこと。
無断でしたらいけないはずだ。
怒られるかな、と思った。
次に嫌がられたらと考えて、胸が詰まった。
言葉も息も思うように出てこなくて、きっとこれで死ねるんじゃないだろうか。
あぁもう、どうすれば……!
「場所が違う」
がそう言った。
普通の口調で、いつもの声だった。
憤死するんじゃないかと思うくらいわたわたしていたアレンは目を見張る。
はそんなアレンを見上げて言う。
「キスをする場所が違うよ」
「………………………………は?えぇ?な、何?」
一瞬にして真っ白になったアレンの手を引いて、は首を傾ける。
「どこかの国の誰かの名言よ。それによると額じゃなかったはず。……うん、私なら親愛のキスはここにする」
言葉の最後でアレンの両肩に手をかけて、はつま先立った。
アレンはわけがわからない。
先刻の自分のキスは、親愛とか、それだけのつもりでしたんじゃないんだけど。
そして何を当たり前みたいにキスを返そうとしてくれているのだろう。
そんなことを考えつつも、近づいてくる桃色の唇に意識がぼんやりした。
の肌は相変わらず白くて、造作はいつも通り完璧だ。
彼女のしなやかな指先がアレンの頬に触れて。
触れて……。
「駄目だ」
咄嗟にアレンはの肩を押さえた。
彼女の指先をそっと引き剥がす。
自分の、左頬から。
は驚いた顔もせずにアレンを見ていた。
アレンは何だか泣きそうに笑った。
「駄目だよ。ここは」
吐息と共に囁きながら、自分でそれを撫でた。
アレンの左頬に刻まれた歪な傷。
黒いペンタクル。
愛しさを貫いた結果、愚かさの代償。
「呪いには触れないで」
君のその綺麗な唇で触れないで。
「……どうして?」
「訊かなくてもわかるはずでしょう」
「わからないし、わかりたくないよ。あなたがすごく嫌なことを考えてそうだとは思うけど」
真っ直ぐなの声を聞きながら、それでもアレンはわずかに首を振って左目を覆った。
口元には笑みを浮かべたまま。
「嫌なことでも駄目なんだ。これは……弱くて愚かな僕の証だから。君が親愛を寄せちゃいけない」
「完璧に予想通りの言葉。逆に感動するなぁ」
は呆れたような口調で、けれど本当は真剣な瞳でアレンに腕を伸ばした。
そして左目を覆う赤い手に触れる。
そこから引き剥がすと指先にキスをした。
ちゅっ、と軽い音を立てられて、アレンは硬直する。
黒い爪に柔らかい物が触れて、撫でていく。
アレンは思い出したかのようにびくりと肩を揺らして、咄嗟に左手を引こうとした。
けれど強い力で掌を掴まれる。
腕力でに勝てないはずはなかったけれど、頭が混乱していてうまくいかない。
瞳を伏せたがアレンの手に頬を寄せながら囁いた。
「アレンはいつだって吃驚するくらい突然私に触れるくせに。私から触れると逃げようとするのよ」
「だ、だって……!」
「オマエは箱詰め娘か、ピュアな乙女かと問い詰めてやりたい気分です」
「君こそタラシの男ですか!やめてくださいっ」
「何で」
は少しムッように訊いてくるけれど、そんなことよりアレンは早く自分の左手を取り戻したかった。
押し付けられた柔らかい肌の感触と熱に胸が騒ぐ。
「だって……っ、僕のは大きさも感触も普通の人とは違うし……!」
「だから?」
それがどうかした?と言いたげなに、アレンは言葉に詰まった。
そう、いつだって彼女はこうなのだ。
簡単に赤い左手を握って、呪いの瞳を見つめてくる。
嘘も迷いもなくアレンの全てを認めてくれる。
に触れられるのは嫌ではなかった。
恥ずかしいけれど、それが彼女の好意の示し方なのだと知っているからだ。
ラビや神田とじゃれあっているのを見て羨ましいと思ったことも、なくはない。
けれど……。
アレンは一度、唇を噛んだ。
それから小さく言う。
「き、気味が悪いんだってわかってるんです……。これまで生きてきて、そんなことくらい」
「……………………」
「髪の色はおかしいし、左手は異形だ。頬の傷は歪で、瞳は呪われている。だから、そんな風に……、躊躇いもなく触れないで。慣れていないから、どうすればいいのか」
アレンは完璧に顔を伏せてしまった。
「わ、わからない……」
本当はわかってる。
は決して自分を振り払わない。
傷つけるために手を伸ばしたりはしない。
そんな人間じゃないのは思い知っているのに。
信じているのに臆する自分は、くだらない気がした。
それでもただ、応えるのが怖かった。
頬が熱い。
もういっそ、泣いてしまえば楽なんじゃないだろうか。
「わからないのなら思い知るべきね。そして慣れろ」
目の前で強くが言った。
変な命令口調だ。
同時に左手の指の間を握られたから、アレンは思わずカッとして顔を振り上げた。
「それはアクマを破壊するものですよ!?」
「でも、アレンよ。あなたの一部よ」
響く声で言い切って、はまたアレンの左手を引き寄せた。
掌で覆うように、胸元で抱き込む。
はただ、アレンの左目を見ていた。
そこに浮かんだ歪んだ愛の形を。
「悪いけれど、私は誰でも受け入れられるほど出来た人間じゃない」
「…………………………」
「ただ仲間になった人が、背中を預けられると信じた人が、あなただっただけ。それだけの話よ。単純明快、わかりやすいでしょ?」
「……………………気持ち悪いとは思わないの?」
「正直、怖いと思ったことはあるよ」
それは当たり前の感情だった。
アレン自身も凶々しいと思っている。
勝手にアクマを求めて暴走することもあったものだ。
アレンにとってはエクソシストへの道標とマナからの贈り物であるから、大切だとも思う。
けれど、他人の目にどう映るかもよくわかっていた。
恐ろしいと思わないほうがおかしい。
それが当然なのだ。
は少し睫毛を震わせたが、それでも目を逸らさなかった。
「けれど、私はあなたに何度も助けられた。この左手にも、その左目にも」
伸びてくる白い指先。
アレンは肩を揺らしたが、見つめてくるの瞳に拘束された。
「触れてみれば温かかった。なぁんだ、って拍子抜けした気分だったよ。一時でも、私は何を怖がっていたんだろうって」
「………………僕は、まだ怖いよ」
「やっぱり思い知るべきね。重要なのはあなたが“アレン”ってことで、その他は気にすることじゃない。少なくとも私はそういう結論に達したの」
「………………………」
「破壊の武器も、哀情の呪いも、あなたなら」
手が伸びて傷跡に触れた。
ゆっくりと指先が撫でていく。
やめてくれと言いたかった。
怖い。
何だかの持つ光を侵してしまう気がした。
けれど彼女は言う。
「私は大切だと思う」
「でも、これは僕の弱さだ……」
「そう。後悔とか懺悔とか、記憶とか愛情とか、全部。ぜんぶなんだよね」
「…………………………」
「いっぱい泣いて、たくさん苦しんで、それでも必死に生きてきた。ここまで一生懸命に歩いてきた。そんなあなたと共にあった……、あなたの一部なんだもの」
は指先を引いてアレンの肩にかけた。
そして少し潤んだ瞳で微笑んだ。
「ごめんね。あなたが気にしていることを、私はどうでもいいと思ってしまった。そんなことは取るに足る問題じゃない」
「……」
「傷でも呪いでも、あなたなら。私は大切だと思う。今はもう、それだけよ」
見つめてくる瞳も、強く握られた手も、戸惑いはない。
偽りもない。
アレンの視界が狭くなって、金色でいっぱいになった。
つま先立ったがアレンの頬にキスをする。
呪いの傷痕に落とされた口付け。
与えられた温もりに、痺れを感じた。
感覚が一瞬遠くなって、鮮明になる。
間近でが目を開いた。
「親愛のキスはほっぺにするものなのよ」
それからまたくんっと伸び上がって、アレンの額にかかった白髪をかきあげる。
今度はペンタクルにキスをした。
「額は祝福のキス。だからこれを受けるのは、私じゃなくてあなた」
唇が離れてから、ようやくアレンはそれがひどく心地良いものであったことを理解した。
こんなにたくさんのものを自分に与えて、は惜しくないのだろうかと思う。
何だか不思議な気分だ。
胸が熱くて切ない。
涙が滲んだ。
そんなアレンの瞳を覗き込んで、は微笑んだ。
「お誕生日おめでとう、アレン!」
それはあまりに不意打ちだった。
アレンは言葉を失って、目を限界まで見開く。
弾みで涙がこぼれそうになったが、そこでがよろめいたので、彼女には見られずにすんだ。
アレンは咄嗟に腕を伸ばしてその華奢な体を支える。
そうすればは唇を尖らせた。
「ありがと……。でも、言っておくけど私が小さいんじゃないからね!アレンが大きいの。まったくキスをするのも一苦労なんだから……」
そして伸ばしすぎた腰をひねった。
イタタと背をさすって、口の中で言う。
「何で私の友達はこう背が高いんだろ……。アレンは割りと身長が近いほうなのに、どうしてこう…………」
「……………………あの」
「不公平だよね、この身長差。半分寄こせと声を大にして訴えたい!」
「あ、あの。……」
「せめて3分の1は私に献上すべきだと思うな。よし、アレンには毒念波を送っておこう。日ごと1センチずつ縮んでいくがいいわ!」
「ってば」
「10日後には同じ目線よ、ざまぁみろ!!」
「!!」
大声で名前を呼べば、は両手で顔を覆ってしまった。
何だか耳が赤い。
けれどアレンはそれ以上に真っ赤になったまま、彼女の肩に手をかけた。
「……あ、あの」
「なに」
「えーっと……」
「あああ、ごめん!何か居た堪れないっ」
それは僕の台詞だろう、とアレンは思ったが、は小さくなりながら呻いた。
「予想以上の破壊力だ、恥ずかしい……。恥ずかしすぎる……っ」
うんうんそれは僕も、とアレンはまたもや思ったが、はさらに言った。
「アレンに面と向かって“おめでとう”というのがこんなに勇気がいることだなんて……!」
「………………………………はぁ?」
アレンは思わず変な声を出してしまった。
はますます小さくなった。
「ラビやリナリーなら平気なのに……っ。神田に言おうと思ったらスリル満点だけど、アレンは別の意味で命を振り絞ったよ!」
「何で……?」
「ふ、普段なら言わないし、言えないことだから?」
「……………………」
「どうしてだろ……。よくわからないけど、アレンが相手だといつもみたいにいかない……」
は不思議そうに首をかしげ、そんな自分に思うところがあったのか悔しげに唇を引き結んだ。
それはそれでアレンにとって嬉しい言葉だったのだが、それよりも何だか目眩を覚える。
口付けより“おめでとう”のほうが恥ずかしいってどんな感覚だ。
アレンは思わずため息をついたが、それは微笑みを含んでいた。
「。照れているところを悪いんだけど」
「て、照れてない!何でかいつもの自分を失ってるだけっ」
「それを照れてるって言うんじゃ……、まぁいいや」
アレンはの頭を撫でてなだめると、微笑を浮かべた。
胸に溢れるこの幸せをどう伝えよう。
アレンの興味は今、その一点に尽きた。
指に金髪を巻きつける。光る薬指。
「ねぇ。もう少し、変なままでいてくれたら嬉しいんだけど」
「え?」
そしてアレンは染めた頬で、に耳打ちをした。
「もう一度、抱きしめてもいい?」
の金色の双眸が見開かれた。
それから何度か瞬きをして、視線が右を向き、左を向き、足元に落とされる。
アレンを掴む手が、ぎゅっと握り締められた。
「え、えーっと……」
そしては決然と顔を振りあげた。
「死なない程度にお願いします!」
「…………………………ぷっ、あはははははははははははは!!」
一瞬きょとんとしたアレンだったが、すぐさま声をあげて笑い出した。
見事な大爆笑だ。
それを見て慌ててが言いなおす。
「え、えっと!じゃあ、殺されないようにかんばります!!」
「あ、あはっ、あはははははははははは!!」
「ちょっとは手加減してよ、ってこと!クリスマスに抱き殺されるなんて、やっぱり嫌だもの!!」
「わ、わかった……、わかったから……っはは、あははははははははは!!」
アレンは笑いながらを引き寄せて、抱きしめた。
力いっぱいぎゅっとしてやりたかったけれど、死なない程度にしてくれと頼まれたから何とか加減する。
でも少しくらいはいいだろう。
も殺されないようにがんばってくれるのだから。
くすくす笑って、抱きしめ合う。
アレンがあまりに笑うものだからは少し憮然としていたが、頬が赤いからきっと怒っているわけではないのだろう。
こちらの背にまわされた彼女の腕が嬉しかった。
吐息が漏れる。
胸が熱くて、温もりでいっぱいで、どうしようもなく幸せだった。
しばらくそうした後、アレンは言った。
「といると、いつも大変だよ」
「何で?」
「驚いたり、怒ったり、笑ったりで。特に笑いすぎて困るな」
「全然足りない!」
「ええ?」
「まだまだよ。もっともっと、笑わせてあげる」
はアレンをぎゅっと抱きしめた。
それから少し身を離して笑った。
にやりと、不敵な笑みが唇に浮かぶ。
「ふふん、今夜は寝かさないからね」
「は……、はぁ!?」
「完全徹夜で一日中騒ぐんだから!」
「…………………………………………な、何だ。そういうことか……」
「だって今日はおもしろおかしく愉快な誕生日!絶対無敵の“幸せなクリスマス”なんだもの!」
は指先をアレンの鼻先に突きつけた。
「完膚なきまでに笑わせて、死ぬほど楽しませてみせる。こればっかりは絶対に譲らない。覚悟してね、アレン!」
そして強気に言い放った。
「“今日”が最高に素敵な日なんだって、うんと思い知らせてあげる!!」
アレンはそれを聞いて、咄嗟にどう思ったのかわからなかった。
それより先にの頬にキスをする。
それで充分だった。
感謝と喜びが世界を支配しているんじゃないかと思う。
錯覚だと知っているけれど、今そう感じる心が幸せだった。
アレンとは目を見合わせて微笑んだ。
「苺のケーキを買って帰ろうか」
「うん、お腹すいちゃった」
二人は優しい視線のままで頷いた。
「じゃあ行こう。階段を下りるのが怖いなら、手を繋いであげるよ」
「そっちこそ、滑り落ちたくなければ僕に捕まっていてくださいね」
言いながらどちらともなく掌を重ねた。
の右手とアレンの左手が握られる。
並んで歩き出す。
今日はクリスマス。
特別な日。
だからちょっとだけ変でいよう、なんて。
そんなの嘘で、本当はいつも想ってた。
ねぇ、。
僕は君の意地っ張りしか言わない唇とか、わかりにくい優しさとか、ふいにこぼす本音とか。
本当は全てが愛おしかった。
愛おしかったんだよ。
今日という日を忘れない。
優しい炎のように輝いて、きっと胸を照らし続ける。
アレンはきっと誰にも負けない、光のような笑顔を浮かべた。
そしての手を引く。
自分が捕まえ、手に入れた金色の星を。
「そう言えば、僕はまだ言っていなかったね」
「何を?」
「メリークリスマスって」
見つめ合って、も微笑んだ。
「だったら、ね。あっちのほうがいいよ」
「でも、僕も?自分で言うの?」
「いいから、いいから」
いたずらっぽい瞳でアレンとは声を揃えた。
「「Merry Christmas & Happy Birthday!!」」
二人は笑いながら走り出した。
手を繋いだまま、心を繋いだまま。
そして、クリスマスの街を誰よりも幸せな気持ちで駆け抜けていったのだった。
はい、アレン誕生日夢でした〜。
後編はずっとくっついてますね。
いえいえ、それだけで甘いだなんて言うつもりはありませんよ?ええ、ちっとも!(笑顔)
でも書いていて普通に恥ずかしかったです……。キスとかハグとかの問題じゃなくて、何かこう……!(何だ)
お読みくださった皆様はいかがなのでしょう。
こんなもんじゃ恥ずかしくないですか、そうですか……。
不甲斐ない管理人で申し訳ないです。夢小説サイトのくせに!(涙)
ここまでお読みくださってありがとうございます。
どうぞ楽しいクリスマスをお過ごしくださいませ〜。
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