駄目よ、まだ内緒なの。
白い便箋を広げないで。綴った心を読まないで。
もう少し、だけ、だめ。
● 追憶ユールタイド 2 ●
「クリスマスはぁ」
低音で呻るように言えば、何だ何だとラビが振り返ってきた。
床一杯に広げた箱の中から、ツリーに巻く色つき電球を取り出しながら、は続ける。
「家族と過ごす日であってぇ」
きょろきょろと辺りを見渡す。
手ごろな踏み台がない。
はラビを手招くと、ツリーの上部を指差した。
その無言の頼みを、さすがの親友は、すぐに理解してくれたようだった。
「決して恋人と過ごす日じゃないのですぅ」
「はぁ?」
それでもそこで怪訝な声をあげられる。
は構わず屈んだラビの肩に跨った。
そのまま赤毛の青年が立ち上がったから、ツリーのてっぺんにも楽々手が届くようになる。
前に肩車をしてもらったときと目線の高さが違ったので、はどうにも悔しい気持ちになった。
「……ラビ、また背が伸びたね」
「成長期だからなぁ。オマエもいい感じのケツになってきたな」
「臀部を撫でまわすのはやめて。太ももで首絞めるよ」
「そんなのオレ的にはご褒美さ!!」
「続けて骨を砕き折る」
「えげつない!殺し方がえげつない!!」
淡々と告げて実際に脚に力を入れると、ラビは「ギブギブ!」と悲鳴をあげた。
止めろと太ももを叩かれたので脱力する。
そのまま赤毛の頭に圧し掛かった。
ラビの肩の上では深々と嘆息する。
「……一般的には、クリスマスって、恋人と二人で過ごすものなの?」
「まぁ普通はな。……何?オマエまさかアレンと一緒にいないつもりなんさ?」
「それはないけど」
「つーか、教団のクリスマスパーティーに出る気だとか言わないよな?」
「………………………」
「あっはっは、そんなまさかなぁ」と笑い飛ばされたので、は思い切り言葉を失った。
え?何?そんな当たり前みたいに否定されるほど、私の出した答えはダメなの?ダメダメなの?
思わず黙ってしまうと、ラビの笑い声も消えていく。
そして最後には同情の呟きとなった。
「うわぁ……アレンかわいそ」
「ちょっと待って。可哀想?アレン可哀想?」
「オマエがやけに暗くって、冗談にも乗ってこないから、なにかと思えば……」
焦って訊くを、ラビは半眼で見上げた。
「あのなぁ。オマエらくっついたのいつだった?」
「え?えーっと……約一年前?」
「そう。そんで今年は恋人になってから、初めてのクリスマスってわけさ」
「だ、だから?」
「普通!二人っきりで!過ごしたいと思うだろ!アレンにもそう言われたんだろ!!」
「い……、言われたけど……」
「ホラみろ!クリスマスなんてなぁ、敬虔な信者以外は好きな相手といちゃいちゃするためだけの日なんだよ!それをオマエ、“みんなと過ごしたいからー”って言って断られるとか!!」
思いのほかラビがアレンの肩を持ち始めたので、は若干引き気味に頷く。
何だかよくわからないけれど、怒られているのは確かなので、口答えしないで頷いておく。
「そんなもん、アレンにとってみたら、“自分っての何?”って思うだろ!思っちゃうだろ!!」
「こ、恋人ですが」
「行動で示せぇ!!」
大声で言い放って、ラビはその場でぐるぐる回り出した。
肩車されているとしてはたまったものではない。
振り落とされないように赤毛にしがみつく。
そんな調子でぎゃあぎゃあやっていたので、一緒にパーティーの用意をしていた団員たちの注目の的になってしまった。
「そこの二人、遊んでないで」
「さぁさ。早くやってしまいましょう」
「特にちゃんは準備しか出られないんだから」
口々にそう言われても、には返す言葉がない。
ラビの視線が痛い。
それ見たことか、と言わんばかりだ。
「みーんな、オマエはパーティー不参加だと思っているみたいさねぇ」
「…………………………」
「何でだろうなぁ」
「い、一般論には負けたくないのが本音です!」
「オマエだってアレンに悪いと思ってるくせに」
挙手をしつつ力説すれば、ばっさりと切って捨てられた。
そんなことないと否定しようにも親友の鋭い指摘に先を越される。
「だからさっきからそんな、無駄に落ち込んだ風なんだろ」
「む、無駄って……」
が冷や汗をかきながら俯けば、ラビが首を反らせて真上を見上げてくる。
二人は真正面から瞳を見合わせた。
「遠回しなことしないでちゃんと言えば?」
「う……」
「クリスマスに教団に居たい理由も、な」
言葉の終わりに微笑まれた。
大好きな親友の笑顔だ。
彼にでさえそんなことを伝えるのには躊躇いを感じるのに、アレンに何をどう言えというのだろう。
とんでもない難題だ。
にはとんと答えがわからなかった。
「リナリーみたいに」
「うん?」
「あの子みたいに、素直で可愛い女の子になりたかったなぁ……」
滅多に吐かない弱音を口にすると、何故だか大爆笑された。
は憤然としてラビの頭を叩く。
馬鹿にされているわけではないと知っていても、何だか妙に恥ずかしかったのだ。
「もう!いいからツリーの飾りつけ終わらせちゃおう。次はてっぺんのお星さまを……」
「お星さまになりたいんですか」
そこで唐突に低い声で囁かれた。
ラビがびくりと体を震わせる。
彼の肩に乗っているにも、その壮絶な殺気は伝わってきて、全身に鳥肌を立てた。
「聖夜の空に煌めく一番星になりたいんですか、ラビ。だったら今すぐ僕がその願いを叶えてあげますよ」
そう穏やかに言うアレンの左手は当然のように発動されていて、ラビの背中にぴったりと突き付けられていた。
気分的にはアレだ。
強盗に銃を押し当てられている感覚に近い。
否、それが顔見知りの犯行とあっては、恐怖は何倍にも跳ね上がってくる。
「ア、アレンさん?」
ラビが恐る恐る名前を呼ぶと、彼はにっこりと微笑んだ。
「何を楽しげにを肩車してるんですか、君は」
「た、頼んできたのはコイツさ!」
「そちらの制裁は後でします」
あっさりそう言ってのけられたので、は顔を強張らせて後ろを振り返った。
そこにいた腹黒魔王は冷ややかな視線を赤毛に注いでいる。
「一体君はどこを触っていると思ってるんですか」
「お、お尻……」
「それと?」
「太もも……」
「さらに?」
「む、胸も当たってるかなー……」
マジですか、とは呟いてラビの頭から上半身を起こした。
その直後に団服の背中を掴まれる。
勢いよく引っ張られたから、見事にラビの肩から転がり落ちた。
「ぎゃあ!」
は床に激突して悲鳴をあげたけれど、事の原因であるアレンには華麗に無視される。
どうやら彼はラビを睨みつけるのに忙しいようだ。
「で?言い残すことは?」
「何で当たり前みたいに殺そうとしてくるんさ、オマエは……!」
「むしろに触っておいて生き残れると思うほうがおかしいでしょう」
「おかしい!アレンの基準がおかしいんさ!!」
「あぁ、そうだな。モヤシも馬鹿ウサギもおかしいな」
不意に横手から鋭い声が割って入ってきたから、は痛む腰をさすりながら顔をあげた。
そして目に飛び込んできたのが、イノセンスを構え合うアレンと神田の姿だったので、呆れの吐息を漏らす。
ついでに言うとラビは殺気立つ二人に囲まれて、すでに降参のポーズを取っていた。
「ちょ、ちょーっと待つさ!どうしてオマエら、オレを挟んで睨み合うんさ!?」
「どうもこうも邪魔です、ラビ」
「チッ、存在ごと消え失せろ」
「ひでぇ!マジでひでぇ!!」
ラビは泣きわめいて二人の包囲網から逃れると、床に転がっていたに勢いよく飛びついた。
「うわーん、!アイツら聖夜まで鬼畜すぎるさー!!」
「いや、あの、ラビ」
はよしよしと親友の頭を撫でてやりつつ呻くように言う。
「この状況で抱きついてくるとか、漏れなく死ねるよ……?」
現にアレンも神田も殺人的な目でこちらを見下ろしている。
直視できないほど壮絶な負のオーラだ。
はぶるりと震えあがったのだけれど、ラビは不意に腕を緩めて体を離すと、真剣な顔でこう告げてきた。
「死ぬのが怖くてオマエの親友やってられるかよ!」
「うわぁ、マイベストフレンドかっこいい!痺れちゃう!そして本当に死んじゃう!!」
キリッと表情を決めているラビの頭上には、すでにアレンの左手と神田の刀が振り上げられていた。
は何とか二人を止めようと両掌を突き出す。
その首に改めてラビが抱きついてきた。
「ふーんだ。オレがと仲良くクリスマスパーティーの準備してるからって妬くなよな」
「それはいいからバカ女に引っ付くな」
「ユウはよくても、アレンはよくないんじゃねぇの?」
「……どういう意味です?」
ちょっと鼻を鳴らされて、アレンは不快そうに眉根を寄せた。
神田も意味がわからなかったようだ。横目で白髪の少年を見やる。
ラビはふふんと笑った。
「クリスマスデートをフられたからって、オレに当たんなよってことさ!」
一体何を言い出したのかと、は驚いて親友を見上げた。
その視線に気づいているだろうに、彼の口元から笑みは去らない。
もしかして自殺願望でもあるのだろうか?
「」
と、吃驚している間に名前を呼ばれた。
アレンだ。
視線を戻してみると、苦虫を噛み潰したような顔をされた。
「君は余計なことをペラペラと」
が何か言う前に、アレンはイノセンスを下してため息をついた。
「もう決着のついた話ですよ。今更どうとも思ってません」
「ウソつけ」
「本当です」
「素直じゃねぇの」
ラビはからかうような口調だけれど、その奥に本気が見え隠れしている。
アレンは今度こそ眉をしかめてみせた。
「絡むのはそれくらいにしてください。、おいで」
返事を待たずに手を掴まれる。
を引っ張り立たせると、アレンはそのまま歩き出した。
「どこ行くんさ?」
「君たちのいないところ」
ラビにすげなく返したアレンは、振り返りもせずに進んでいく。
いつもなら何やかんやと言ってくる、神田の文句さえ聞こえてこない。
その理由が今日という日にあると気が付いて、は非常に居たたまれない気分になった。
言いたいことはたくさんあった。
してあげたいこともたくさんあった。
それを全て黙ったままでいるのは、たったひとつを望んでいるからだ。
なんだか急に堪らなくなって、は繋がれたアレンの手を引っ張った。
後ろ向きに力を加えられた彼は、がくんっと体を傾けて立ち止まる。
怪訝そうに返り見られた。
「なに?」
「あ、あの」
は何とか口をこじ開けたけれど、呼ぶ声に遮られて続きは音にならなかった。
「おーい、アレン!!」
二人そろって視線を向ける。
出入り口の方からリーバーとジョニーが大量のダンボールを抱えて歩いてくるところだった。
「よぉ、俺たちもパーティーの準備を手伝いに来たぜ」
「わぁ、ありがとうございます」
「いつもたちにばかり任せているのは悪いからね」
「ジョニーも。うれしい」
徹夜明けの体を引きずってきてくれたことに、は少なからず感動して笑顔を浮かべた。
「さっすがおちゃらけ室長と戦う正義のインテリ!根性が違いますね」
「任せとけよ」
拳を握って賞賛すれば、リーバーが乗ってくれた。
ジョニーと一緒になってふんぞり返る。
「そういえば、アレン」
「はい?」
そこでジョニーは逸らせた胸のポケットから、何かを取り出してきた。
白い封筒だ。
銀の縁飾りがついている。宛名も同じ色のインクで綴られていた。
何だかものずごく見覚えのあるそれに、はさぁっと青ざめた。
「これ、落ちてたよ」
「……?何ですか、それ」
「手紙みたいだけど」
「僕宛て?」
「うん、だってここに“Dear Allen”って書いて」
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
そこで我慢できなくなったが叫んだ。
あまりの大音声だったのでアレンたちだけでなく、パーティー会場にいるすべての団員の視線を我がものにしてしまう。
とにかくはジョニーの手から例の手紙をひったくって、すぐさま自分の胸元へと押し込んだ。
「「「…………………………」」」
「あ、あははははははははっ」
困った。
これは実に困った。
だからはどうにか誤魔化せないものかと笑ってみたけれど、リーバーとジョニーはきょとんとしたままだし、アレンに至ってはすでに冷たい表情に変わっていた。
「」
「は、はいぃ?」
「今すぐ両手を挙げてジャンプしてください」
「いやあの私お金なんて持ってないです毎日のご飯にも困るくらいで本当」
「誰も金銭なんて要求していませんが、この手間賃くらいは払ってくれてもいいんですよ」
「無理むり、だって今日の晩ご飯なんか大根飯なんだよ?アレン、大根飯って知ってる?ご飯に大根を混ぜてかさを増やすという、庶民の味方なメニューなんだけどね?これが実はとっても優秀な健康食で」
「へーえ」
「大根は食物繊維やビタミンA、ビタミンCが豊富なのよ。さらに葉の部分を加えるとカルシウムや鉄分などのミネラルまで摂れちゃうの!」
「ほーお」
「胃腸を整えて肌を綺麗にするから女性にもお勧めだし、風邪対策の効果も期待できるから今の季節にはまさにバッチリ!!」
「はい、バッチリ!!」
そこでそんな掛け声と共に、思い切り額を引っ叩かれた。
バッチリじゃなくて、バッチンと音が鳴る。
だんだん調子に乗って話していたは、得意満面にその攻撃を受けて悶絶した。
「はな……っ、鼻が折れた……!」
「いやですね、僕が折ったのは話の腰です」
「どっちでもいい!どうでもいい!」
「僕のほうこそどうでもいいです。ほら」
真っ赤になったの顔に向かって、アレンはずいっと掌を突き出してみせた。
「先刻の手紙、渡してください」
「な……なんのことやら……」
「……、それ僕宛てですよね?」
「あ!もしかしたらラブレターかもよ!?それだったら立場的に私がお預かりしちゃっても」
「……………………………」
「変ではないかなー、なんて」
「身に覚えがありません」
「……胸に手を当てて考えてみたら?」
アレンは一瞬真顔で考え込んだけれど、彼にしては割ととんちんかんなことを言ったので、は思わず低音で返してしまった。
すると銀灰色の瞳が瞬く。
やけに素直な顔だ。
そしてその両手が胸に置かれるべく持ち上げられて、
「おいコラちょっと」
はますます低音で呻った。
何故ならアレンが手を当てようとしてきたのが、の胸元だったからだ。
「誰が私のって言った!?」
「だってやましいことがあるのはそっちでしょう?」
「いやいやなんか純粋無垢ぶってるけど、あんたのしようとしていることはセクハラ以外のなにものでもないから!」
「。大人しく手紙を寄越してください。さもないと君の胸ごともぎ取りますよ」
「両手をわきわきさせながら迫ってこないでー!」
上半分に影のある笑顔でにじり寄ってくるアレンに、は自分の胸を庇いつつ叫んだ。
おかしい。
この状況は絶対におかしい。
「オイオイ、恋人のおっぱいもぎ取ろうとする男なんて聞いたことねぇさ」
珍しくラビが正論を言った。
同時に神田が『六幻』を振り下ろすことで、アレンとの間に割って入ってくれる。
はその隙に避難しようとしたけれど、漆黒の刀は床すれすれで方向転換すると、何故だかこちらに向かって翻ってきた。
悲鳴をあげつつ持ち前の反射神経で回避。
危なかった。もう少しで本当に真っ平らにされるところだった。
「ちょっと何で神田まで私の胸を狙ってくるの!?」
「うるせぇ、感謝しろ。そこの変態モヤシに触らせるくらいなら、俺が刈ってやろうっつてんだよ」
「手を出さないでください、神田。の胸は僕のです!」
「私のだよ!!」
「ふん。そんなもん、ただの脂肪だろ。健康マニアのお前を尊重して、すっきりした体型にしてやろうじゃねぇか」
「すっきりじゃなくて、バッサリやるつもりでしょうが!大体どういうことなの、女子の胸に対して、もぐとか刈るとか、ただの脂肪だとか!」
あまりの言い草には強く訴えたけれど、アレンも神田も当たり前のように聞いてくれない。
仕方がないのでラビやリーバーを盾にすることにする。
こういうとき長身の彼らは便利……、じゃなかった、頼もしい!頼もしい存在だ。
「う、わ!神田やめろ!!」
「ちょ、アレンも!マジで危ないさ!!」
けれどどうやら彼らは本気のようで、黒い刃がリーバーの頬を掠め、白い左手がラビの赤毛を薙ぐ。
迫りくる凶器を避けて、はジョニーの傍まで転がってゆく。
「……さっきの手紙、早く渡しちゃったほうがいいんじゃない?」
激しい乱闘に引き気味のジョニーが言うけれど、はどうしても頷くことができなかった。
「絶対だめ!」
「もらった!!」
そこで『六幻』がの頭を狙って振り打たれる。
即座に身を低くして避けたのだが、運悪く何かを踏みつけてしまった。
しかも球体だったのだから最悪だ。
クリスマスツリーのオーナメントであるそれに滑って、は思い切り尻餅をつく。
腰に衝撃を感じるのと同時に陰る視界。
これは本当に削がれるかなと恐怖した、そのとき。
「あ」
「あ」
「あ」
「ああ!?」
「危ない!!」
神田の“しまった”という呻きと、ラビの吃驚した声と、ジョニーの咄嗟の呟きと、リーバーの危惧する叫びと、アレンの焦ったような呼びかけ。
それらが重なったときにはもう、の目は完全に塞がれていた。
暗くなった世界の外側で、どさどさと盛大な音をたてて、何かが床へと雪崩落ちる。
状況から察するに、神田の振るった『六幻』が、ジョニーの抱えていた荷物にヒットしてしまったようだ。
宙へと跳ね上げられたそれから中身がこぼれ落ちる。
重力に従って、下へ下へ。
床に転んだの上へ。
痛みは感じなかった。
それどころか、物が体にあたる感覚すらない。
代わりに全身に覚えたのはぬくもりだった。
匂いと感触で誰だか知る。
アレンだ。
彼がの頭を抱え込んで、無理やり自分の体の下に押しやったのだ。
名前を呼んだけれど落下音に掻き消された。
キラキラ輝くオーナメント。色とりどりのモール。真っ赤な靴下。
落下してきたのは全てクリスマスの飾りだった。
どれも軽いものだから、当たっても怪我はしないだろう。
けれど本当にそうならば、アレンもをここまで庇ったりしなかったはずだ。
たったひとつの誤算は、降り落ちてくる物の中に、何故だか一本だけ瓶が混じっていたということだった。
アレンの体の下の、わずかな隙間からそれを視認したは、即座にイノセンスを発動した。
だってあんなのが直撃したらとんでもないことだ。
アレンが退くほうが早いとわかっていても、反射的に光刃でガラス瓶を切り裂く。
おかげで中身が飛散してしまった。
妙な色をした液体とクリスマスオーナメントが一緒になってアレンの全身を襲う。
「う、うわ、ごめん!」
余計なことをしてしまった気がして、は慌てて謝罪した。
だってアレンに当たったら嫌だったから。咄嗟に。本当に咄嗟に。
もわんっと立ち込めた煙を必死に掻きわけて、自分の上に覆いかぶさる人影に飛びついた。
「アレン!ごめんね、無事で……」
絶句。
本当に言葉を失くす。
アレンのほうはというと、綺麗に意識を失っていた。
先ほど撒き散らしてしまった薬の影響だろうか。
の膝に頭を落としたまま、ぴくりとも動かない。
「………………………」
その顔をじっくりと見つめる。
穴が開くくらい凝視する。
そぅっと片手を伸ばしてみると、の掌で覆えるほど顔が小さかった。
触れた頬は異様なくらいに柔らかい。
「ジョニー」
が呼ぶと、彼はびくりと肩を揺らした。
リーバーも必死に目を逸らしている。
科学班の二人が蒼白になっている傍で、神田とラビも非難の眼差しを彼らに向けていた。
は降り積もったオーナメントを弾き散らしながら立ち上がった。
「『若返りの薬』はぜんぶ処分したんじゃなかったのー!?」
そう絶叫するの腕には、“小さくなった”アレンが抱きかかえられていたのだった。
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