自由の国と偉大なる海。
ある日を境に決別した二人。
その真相は、本人達だけが知るところだった。
世界限定!Ocean会議
Track.3
会議室は一瞬、沈黙した。
何故なら誰もが知っていたからだ。
アルフレッドとは、仲が悪い。
顔を合わせるたびにこの二人は険悪な雰囲気を醸し出すのである。
それは、アルフレッドが一方的にを敵視し出したのがきっかけなのだが……。
「アルフレッド」
またか、と思ってアーサーは咎めるように名前を呼んだ。
けれど「うるさいな」とでも言わんばかりの目で見られてお終いだ。
彼は大股で歩いてきての前に立った。
傍にいたアーサーはついでのように脇に追いやられた。
「おい!」
「邪魔」
思わず抗議の声を出すと、今度こそすっぱり切り捨てられる。
可愛くない。断然可愛くない。
「ほら、。君の大好きなアルフレッドだよ」
しれっと言い放って、を見やる。
彼女は決して背の低いほうではないのに、ひどく見下すような感じだ。
わざとらしく両手を広げてアルフレッドは微笑んだ。
「君がどうしてもって言うんなら、再会のキスをさせてやってもいいんだぞ」
対するもすっと目を細める。
「アル坊こそ。ほら、大好きなですよ。久しぶりだからって遠慮しないで、甘えていらっしゃい」
「ワォ、面白いことを言うね!ついに海水で脳みそまでふやけたかい?」
「あなたはつまらないことを言いますね。頭がハッピーなアメリカンジョーク……とても笑えません」
二人はしばらく睨み合った。
笑顔のままアルフレッドは腰を屈め、と鼻先を突き合わせる。
そして目元に影を落として囁いた。
「冗談じゃないんだぞ」
「じゃあ冗談にしてあげる」
まるで鏡のように、も同じ表情を浮かべる。
当たり前のように発生した不穏な雰囲気に、アーサーは制止しようと口を開いた。
真面目なルートヴィッヒにも似たような気配を感じる。
けれどその前に、が爪先立っていた。
「…………………」
アルフレッドの双眸が驚愕に見開かれる。
咄嗟に身を引いて頬を押さえた。
何故ならそこに、が軽く口づけを落としたからだ。
アーサーは絶句した。
他の者は特に驚いていなかったけれど、呆れた顔で見なかったフリをした。
はまた表情を消し、軽く舌を出して言う。
「再会のキス。してほしかったんでしょう?」
それを聞いたアルフレッドは、不愉快そうに頬を手の甲で擦った。
「……やっぱり俺は君が嫌いなんだぞ」
「そう。私はそれなりに愛していますよ。アル坊」
「親しげに呼ぶのはやめてくれよ!」
「それも冗談?やっぱりアメリカンジョークは難解ですね」
「…………っつ」
揚げ足に取られて、天下の合衆国は頬に朱をのぼらせた。
今度は袖口でにキスをされた部分を擦りまくる。
八つ当たりのように叫んだ。
「フェリシアーノ!何だってこんなヤツ呼んだんだ!!」
「ヴェ、ヴェ〜……。だから海面上昇現象のことを、海ちゃん本人に聞こうと思って……」
「そんなのヒーローの俺がいれば問題ないんだぞ!なんてさっさと帰れ!!」
「お、おまっ……」
そこでようやくアーサーは硬直から解放された。
ぶるぶる震える拳をアルフレッドの肩にくれてやる。
「な、なにキスしてもらってんだよ!俺だってまだなのに、この野郎!!」
「その発言が気持ち悪いよ!色ボケもいい加減にしてくれよ!!」
「それになんて口きいてんだ!女性には優しくしろって教えただろ!?」
「君もいつまで保護者面してる気なんだい!他人にとやかく言われる筋合いはないね!!」
「ほ、保護者面……?他人……?」
あまりにきっぱりそう言われたので、ナイーブなアーサーは心にかなりの衝撃を喰らったらしい。
思わずよろめいたところを何気なくに支えられる。
我知らずに涙ぐむと、頭を撫でられた。
ぞんざいな感じだがよく知った手つきだ。
「……」
慰められてアーサーはを見つめた。
と、思ったらすぐさま彼女の体を奪い取られた。
いつの間にやら、はアルフレッドの腕の中だ。
「離れてくれないかい。アーサーとが一緒に居るなんて、不愉快さが二倍になる。最低の気分だよ」
「な……っ、何だよ!返せよ!」
アーサーはぷんすかとそう要求したが、アルフレッドは当たり前のように拒否した。
外野で王がため息をつく。
「はぁ……、おまえら兄弟は何百年も同じことで争って……。全然成長してないある」
「は物じゃないぞ。離してやれ」
ルートヴィッヒが呆れ気味に促したが、アルフレッドは頑として聞き入れなかった。
後ろから圧し掛かるようににしがみついたままだ。
アーサーがジャケットの裾を掴んで引き離そうとしたが、反撃の蹴りひとつで負かされる。
こうなったら本人の意思に寄るのだが、アーサーが見ても彼女は軽く肩をすくませただけで、大した抵抗はしなかった。
いつも通りといえばいつも通りなのだが、長身のアルフレッドをずるずると引きずって歩く姿はかなり奇妙で……かなり面白くない。
「お、お前ら離れろよ!!」
「家で寝ていたってどういうことだい?というかどのへんで?太平洋?大西洋?」
「さぁ。とにかく海底で。私、真っ暗じゃないと眠れないタイプだから」
「あぁ、君はね!俺の家に来たときも明るくて嫌だとか言ってさ。ラスベガスは眠らない街だっていうのに、まったくワガママなんだぞ!」
「私は“眠れないから帰る”と言ったでしょう。無理に引き止めたのはあなた。子供みたいにだだをこねた、アルのほうがワガママです」
「……愛称で呼ばないでくれよ。二人きりのとき以外に」
「はいはい。じゃあアル坊ね」
「……っつ、やっぱり君なんて嫌いだ!!」
「無視するなよ、ばかぁ!!」
アーサーはポコポコと湯気を立てて怒った。
それほどまでにアルフレッドはにべったりで、もはや完全に彼女の背後霊と化している。
いや、こんなにやかましくて目立つ奴を霊などと呼んではあの世から苦情が来そうだが。(アメリカなら有りか?)
「おーもーいー。アル坊、また太りましたね……」
「いきなり失礼だな君は!俺は成長期なんだよ!」
「横に増えていくことを成長とは呼びません。ちょっと本当に体重より脳みその皺を増やしましょうね?」
「君こそもう少し肉をつけたらどうだい主にバストとかヒップとかに」
「オイこらメタボが、さらっとセクハラ発言してるんじゃないですよ」
「俺はナイスバディが好きなんだぞ!!」
アルフレッドに圧迫されたは背を丸めてプルプルと震えていた。
それでも彼を振り払おうとはしない。
アーサーの見解として、はアルフレッドに大層甘かった。
喧嘩を吹っかけられたらきっちりと買うけれど、邪険にあしらうことは皆無なのだ。
大体アーサーがどちらもに体型のことを言ったならひどい報復をしかけてくるくせに何だろうこの対応の差。
しかも俺の知らないところで二人きりで会っていたみたいだし!
「確かにあなたはナイスボディですね」とか言いながらアルフレッドのお腹をぽよぽよ突いて遊んでいたを、アーサーは横合いから捕まえた。
「はこのままでいいんだよ!」
ムカつきながらそう言うと、アルフレッドはようやくから視線を外した。
けれど他の誰を見るでもなく、そのまま虚空へと投げる。
「……だから、嫌いなんだよ」
そう呟いた横顔を見て、何故だかアーサーは昔の彼を思い出した。
広い土地に一人ぼっちでいた幼い少年。
迷子になっていたかのような顔をして、自分の元へと駆け寄ってきた小さな弟のことを。
「……というか」
そんな二人を少しの間見つめてから、が口を開いた。
きちんと挙手をしてからの質問だ。
「いつになったら会議は始まるんですか?」
「「「「「それはこっちの台詞(だ)(だよ)(ある)(です)」」」」」
途端、一斉にそんな苦情を寄せられて、アーサーとアルフレッドは何となく苦い顔を見合わせた。
VS19歳でした。
ただの反抗期のようですが、アルフレッドは過去のある出来事のせいで嫌いだ嫌いだと言っています。
ヒロインもそれを了解しているから普通に受け入れているわけですね。
次回はやっと会議開始です。きちんと進行できるのか!どうぞお楽しみに〜。
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