八つの大国、一つの大洋。
イレギュラーを交じえて、さぁ世界会議のはじまり はじまり。






世界限定!Ocean会議
Track.4






「……で?何で君がそこにいるんだい」


眼鏡の奥の碧眼を半分にしてアルフレッドが訝しげな声を出す。
アーサーもかなり珍しいことに同感だった。
何故ならいつもは目立ちたがり屋なアルフレッドの定位置に、細身のが立っているからだ。
別に彼女は小柄な方ではないのに、妙にちんまりとして見えた。
体格のいいアルフレッドがそこにいるよりも、背後にある黒板が見えるスペースが多いからだろうか。
怪訝そうな表情を向けられたは、いつも通りのローテンションで言う。


「ゲストとして来たので少しは目立とうかと。これからは私の時代だぜみたいな感じでお願いします。“みんな俺について来いよな!”」
「よくそんな台詞まで一本調子で言えるあるな」


王が呆れた顔をする。
確かにはそういうことに向いていないし、何より声にヤル気がない。
現に今も窓の外を飛ぶ蝶を目で追いかけている始末だ。
あまりの幸先の悪さにアーサーはため息をついた。


「こいつが会議を取り仕切るのか?収集したのはフェリシアーノだろう」


疑問を投げるとフェリシアーノはにへらにへらと笑った。


「俺に議長なんて出来ないよー」
「いや、それは期待していない」
「えー?それどういう意味?」


わずかに起き上がったその頭に、ルートヴィッヒが手を置いた。


「とにかく、に任せっぱなしというのはよくないだろう。お前は今日どういうことを話し合うつもりでいたんだ?」
「ヴェ?」
「まさか……。“とりあえず”私たちを呼んでみた、っていうことはないですよね?フェリシアーノ君」


菊が嫌な予感に半笑いになりながら尋ねると、フェリシアーノは思い切り顔に「図星です」という文字を浮かび上がらせた。
菊はそれを見て静かに嘆きだした。
フェリシアーノは困ったようにを見る。


「どうしよう、ちゃん」
「どうしましょうね、フェリちゃん」


言い合って、彼らは同じ角度だけ首を傾けた。
傍から見ていて思うのだが、この二人が喋っていると何だか頭の中にお花が咲いてゆくような錯覚に囚われる。
つまり、何だかとってもお馬鹿になった気分になるのだ。
フェリシアーノはの傍まで寄って行くと、のんびりゆったり話し出した。


「うーん。困ったね」
「困りましたね」
「俺、何にも考えてなかったよ」
「私もです。とってもノープランです」
「えっ、何?本当に行き当たりばったりなの?コルホーズにぶち込まれたいの?」


そこで笑顔のイヴァンが恐ろしい発言をしたものだから、脳内お花畑コンビは手を取り合って縮み上がった。
けれど本気で怯えているフェリシアーノに比べての反応は淡白だ。
彼女は見た目に反して神経が図太い。恐らくヘタレな友人に付き合ってやっているだけだろう。
フェリシアーノがあわあわと口を開く。


「だ、だから、俺ん家の都市の水没をね、絶対止めないといけないって上司に言われて!」
「はい、何とかしなきゃですね」
「それで、ちゃんに聞けば何かわかるかなーって思ったんだ。久しぶりに会いたかったし」


そこで彼はの手をぎゅっと握りなおした。
先刻までガタブルしていたくせに、何という切り替えの早さだろう。
アーサーは顔をしかめて苦情を投げた。


「おい、どさくさに紛れて口説くな」
「あぁ、坊ちゃんにはできない芸当だよな。羨ましいよな」
「お前はほんと死ねよクソワイン」
「ワイン……。今夜はロゼが飲みたいなぁ」


アーサーとフランシスの言葉尻だけを拾って、がうっとりした表情で独りごちる。
喧嘩自体はどうでもいいようで、ワイン以下の扱いを受けた二人は何となく言い合いを止めた。
フェリシアーノがにこにこ笑う。


「じゃあ俺ん家に飲みにおいでよ」
「おいおい、ワインならお兄さんのところだろ?」
「お、俺の家だって!市場は世界一だぞ」
「お前ら会議中にどうでもいい話をするな!……酒といえばビールだろう」
「嫌だなルートヴィッヒ君。そこは何と言ってもウォッカでしょ」
「白酒のほうがうまいあるよ!」
「いえ、焼酎もなかなか」


何だか自国の酒自慢になってきたところで、アルフレッドが面倒くさそうに言った。


の今夜の酒になんて興味ないよ。退屈な話をしないでくれ」
「あなたがつまらないのは、自分が仕切れない話題だからでしょう?」
「……そうだよ。特に君がいると本当にやってられない」
「よしよーし、一人だけ飲めない歳だからって拗ねないでくださいね19歳」
「Shit!だから子供扱いするなって言ってるだろう!!」


それがあまりに相変わらずの喧嘩だったので全体的に無視して、フェリシアーノはの肩を抱き寄せた。


「というわけで、ちゃんの意見を聞いてみたいと思いまーす。今夜、誰と過ごしたい?」
「違う!海面上昇問題のことだろう」


すかさずルートヴィッヒに突っ込まれて、仕方がないというふうに訊きなおした。


「ヴェ〜……。じゃあそのことなんだけど」
「そのことなんですけどね」


そこでが瞳を伏せたので、アーサーは何だか胸騒ぎを覚えた。
この中では一番彼女と付き合いが長いから、雰囲気だけで察せられるものがあるのだ。


「何か……まずいことが起こってるんだな」


低い声で尋ねれば、が頷いた。


「実は……」


その重々しい口調に、その場にいる全ての者が唇を閉じた。
ただ真剣さと不安を混ぜた顔でを見つめる。
大国たちの視線を一身に集めて、彼女は静かに告げた。




「私、身長が6センチも伸びちゃったんです」




「「「「「「「「………………………はぁ?」」」」」」」」


全員の不審の声が重なった。
もれなく意味がわからない。ついでに話の関連性が見えない。
けれどはふざけた様子もなく、本当に憂鬱そうにため息をついたのだった。







ようやく会議開始。すぐさま脱線していますが。(爆)
アルフレッドが子供扱い云々言ってますが、リアルに考えると彼も余裕でお酒飲める歳なんですよね。
でも何となくお酒嫌いそうだな〜と。兄貴がパブっちゃう人なので敬遠してそう。そんな勝手なイメージ。^^
次回は菊が本領発揮の予感。格好いい日本男児がお好きな方はご注意を。(笑)