新たな問題発覚。
増えてゆくばかりの懸案事項。
解決策は出るのは、いつ?
世界限定!Ocean会議
Track.7
「君の性格が悪いのは前からじゃないか!」
呆気にとられた大国たちの中で一番に声を出したのは、またもやアルフレッドだった。
何を今更と言わんばかりに顎での頭をぐりぐりする。
彼女は痛いだろうに、それでも表情を動かさなかった。
「反論はしませんが、あなたにだけは言われたくないですよこのAKY」
「しっかりしてるじゃないか!そういうところが性悪だって言うんだよ!!」
ぷぅと頬を膨らませるアルフレッドの額をアーサーが軽く叩いた。
「の悪口言うな」
「……何だい。やけに庇うね」
「いや、こいつがこんな性格になったのは俺のせいだからな」
「何さり気なく私が性悪であることに同意してるんですかちょっとー」
お前もか!と思いながらが苦情を挟んだが、それは完全に無視された。
「とにかく、これ以上根性曲げられたらたまんねぇよ。一体どういうことなんだ?」
アーサーは心配そうな表情をしていて、それが演技には見えなかったから、は半眼になる。
嫌がらせにアルフレッドの真似をしてふくれてみせた。
「本当に全部アーサーのせいに思えてきました」
「その不細工な顔はやめろ。無表情でやられると怖いんだよ」
今度は嫌そうな様子だ。
手袋つけた手で軽く頬を撫でられる。
人前では直に触れようとしてこないアーサーに、は何となく肩の力を抜いた。
「……、海洋汚染って知ってますか」
「?ああ、海域が廃棄物で汚されることだろう?」
「その影響がついに出はじめたみたいなんです」
「…………………」
ちょっと理解ができなくて、アーサーは沈黙した。
代わりに菊が口を開く。
「つまり……、それによってさんの性質が変わり始めていると?そういうことですか?」
「ええ。その通りです」
「つまりキャラチェンジですね?」
「いいえ。違います」
肯定と否定はまったく同じ口調だった。
対する菊は前半は冷静に、後半は弾んだ調子となる。
「大丈夫ですよ、腹黒キャラは需要が大きいです!」
「何の慰めにもならない言葉をどうもありがとう」
「今みたいな無気力キャラより全然オタク受けしますとも!!」
「本当にいらない太鼓判まで押してくれて、あぁ今ならあなたに対してだけ鬼畜キャラにチェンジできそうな気がしてきました」
「だから君はもともとそういうヤツなんだって!!」
アルフレッドが声高にそう訴えるから、は普段以上に表情を失くした。
彼からもアーサーからも身を引いて、黒板の前まで歩いてゆく。
一体何だ今度はどうしたんだと言わんばかりの大国たちを見渡して、はゆっくりと腕を組んだ。
「あなた達、私の本当の恐ろしさを知りませんね?」
濡れたような黒い瞳で一瞥を送る。
「環境変化で私がどうなってしまうのか……、どれほど性格が黒くなってしまうのか。今から教えてあげますよ」
それは淡々と……しかしいつもとは違う妙な威圧感を伴う口調で告げられた。
「とゆーわけで、この会議室内にいくつか罠を仕掛けてみました」
「……は?」
アーサーはまたもや意味がわからなくて翠の瞳を真ん丸に見開いた。
隣のアルフレッドも似たような表情だ。
「わな?わなって……罠かい?」
「な、何でそんなこと……?」
すでに半泣きなっているフェリシアーノの問いかけには普通に答える。
「これがいかに重大な問題であり、今以上に海が汚されればどのような結果になってしまうのか。あなた達に疑似体験してもらおうと思いまして」
「だからって何で罠になるあるか!意味わかんねぇある!!」
「いや、それ以前にいつの間にそんなものを仕掛けたんだ……?」
王は長い袖を振り回し、ルートヴィッヒは額を押さえる。
は自分の指先で唇を撫でた。
何だか口元が引き攣っている気がする。もしかしてあれは笑っているのだろうか。
「ふふっ。あなた達が此処に来る前……、フェリちゃんがイカ墨パスタを作ってくれている間にですよ」
「さん、ヒールな女性を演じていらっしゃるのかもしれませんが全く似合っていませんよ」
「う、うるさいです菊。まずはあなたからブラック・の餌食になりますか」
「本田君が出るまでもないよ。僕が行く」
菊の肩を叩きつつ名乗りをあげたのはイヴァンだった。
にこやかな笑顔を浮かべての前に立つ。
長身で骨太のイヴァンは完全に彼女を圧倒していた。
さらには目元に影を落としてコルコルし出したのだから敵わない。
「僕、一度君に言っておきたかったんだぁ。毎年毎年、僕ん家の港を凍らせるの止めてくれないかな」
「それは私の管轄ではありません。冬将軍に言ってください」
は怯みもせずにズバッと返した。
「私だって凍りたくて凍っているんじゃないですよ。あの人と会うと自然に固まってしまうというか」
「言い訳なんて聞くと思ってるの?そんなサービス、ロシアにはないよ」
にこっではなくコルッと笑ったように見えるのが恐ろしい。
外野で見ているだけの大国たちだが、思わず怯えて身を震わせた。
「さ、最初からラスボスが出ましたよ……」
「あぁ……。これは嬢ちゃんに勝ち目はないな……」
「逃げろ!走って逃げて来い!!」
こそこそ言い合う菊とフランシスの横でアーサーが叫んだ。
顔を青くして必死に手招きをする。
けれどはちらりと視線をやっただけで、それに従おうとはしなかった。
「イヴァン」
「何かな」
「私だって、あなたの家の港を凍らせてしまうことは申し訳ないと思っています」
「思うだけじゃ駄目だよねぇ」
「けれど、それは私の一存ではどうにも出来ないこと」
は上目遣いにイヴァンを見た。
「それでもまだ、この件でコルコルしてくるつもりなら……」
「つもりなら?」
「イヴァンちゃーんって泣きながら結婚を迫りますよ?」
「……………………」
そこでイヴァンは全ての動きを止めた。
見事なまでの硬直だ。
笑顔のまま固まった彼を見つめながら、は何かの呪文のように言葉を唱え始める。
「ばいーんばいーん結婚結婚、どいーんどいーん結婚結婚、イヴァンちゃーんボイーンボイーン兄さーん結婚けっこーん……」
「帰って!!」
トラウマを刺激されたのか、イヴァンが唐突に叫んだ。
それも涙を流しての大絶叫だ。
思わずじりっと後ずさると、はその分だけ前進した。
「イヴァンちゃんイヴァンちゃん……結婚結婚……さぁ兄さんひとつになりましょう結婚結婚けっこんお礼はキエフシール継承権でいいからねイヴァンちゃーん」
「帰ってぇぇぇええええ!!」
ついに我慢できなくなったのか、イヴァンは背を向けて逃げ出した。
は無表情でそれを追跡する。
もちろん胸の弾む音と結婚という単語を延々と口にしながら。
奇妙で恐ろしい追いかけっこが会議室内をぐるぐると回り出した。
その様子を唖然と眺めながらルートヴィッヒが呟く。
「あのイヴァンが……、やられただと……!?」
「そんな……っ、こうもあっさりと魔王が倒されるとは……」
「……恐ろしい奴ある……!」
フランシスと王の言葉にイヴァンの悲鳴が重なる。
有り得ない展開に一同は衝撃を隠せない。
しかしそんななか、不意に菊が前に進み出た。
「イヴァンさんは私の代わりに出てくださったのです。仇はとりましょう。……我が刃にかけて」
「Wow!サムライソードかい!?」
すらりと抜き放たれた日本刀の輝きに、アルフレッドが両拳を握る。
それをアーサーは頭から怒鳴りつけた。
「バカ、何喜んでんだよ!菊やめてくれ!に悪気は……あるな。ありまくるな。でも刀を使うのだけは……っ」
「ご安心を、アーサーさん。峰打ちは得意です」
「菊……」
「でも斬りつけるのはもっと得意です」
「菊ッ!!」
一瞬ホッとしたアーサーだったが、それは大きな間違いだった。
菊は不敵な……それでも神秘的な笑みを口元に浮かべて構えを取る。
アルフレッドが賞賛の声をあげて口笛を吹いた。
それを耳にしたはイヴァンを追い掛け回すのをやめて菊を振り返った。
「さん。あなたに恨みは……」
「ありますよね」
「ありますね。私怨も含めてイヴァンさんの仇!覚悟ッ!!」
そう叫んで菊は床を強く蹴った。
さすが日本の戦士、サムライだ。
尋常ではない速さで駆け抜け、刀を振るう。
は間一髪でそれを避けた。
興奮したアルフレッドの歓声と、怯えたフェリシアーノの悲鳴。
菊は素早く刀を取って返し、突きを見舞う。
そうしての服をわずかに切り裂き、続けて袈裟斬りを繰り出しは髪を一房奪い取った。
真剣な黒い瞳が対峙する。
は机を盾にすべく、後方に跳んだ。
すぐさま菊が追跡。
「逃がしませんよ」
微笑んだ唇。
けれどそれはも同じだった。
「逃げませんよ」
閃くように囁いて彼女は軽く身を沈ませる。
右手を左腰の位置に置き、呼吸をはかった。
菊はそれを見て訝しげに眉を寄せる。あの構えは、我が国に伝わる抜刀術……?
考えながらも体は戦士としての動きを取り、の懐に飛び込んでいた。
このまま刀を斬りあげれば菊の勝ちだ。
だがしかし、
「鮮度抜群……」
の声が空気を打つ。
「冷凍マグロ!!」
宣言と同時に召喚されたそれが思い切り振り放たれた。
凄まじい衝撃が菊を襲う。
そしてその手にある日本刀が、ガァン……ッ音を立てて真っ二つに叩き折られた。
「ぐ……っ」
勢いを殺しきれずに菊は後ろへと吹っ飛んだ。
椅子を何脚もなぎ倒し、床へと落ちる。
くるくると空中を舞った刀の切っ先が、伏した菊の顔の横に突き刺さった。
「菊!?しっかりしてよ、菊!!」
フェリシアーノが涙を浮かべながら、彼の白い軍服にしがみつき激しく揺さぶる。
しかし返されたのは微かな呻き声のみ。
「……、お、おま……っ」
何やってんだ!と言いたかったのだが声が出なくて、アーサーは口をぱくぱくさせた。
は手のものを持ち上げながら流し目でこちらを見る。
「凍ったマグロは武器にもなる……」
「訊いてねぇよ!つーか何だよそれ!!」
「だから鮮度抜群の冷凍マグロ。ちなみに世界一の水揚げを誇る清水港で取れたものです。とっても美味ですよ。あとで皆で食べましょうね」
「お前どれだけ食い意地張ってんだ!!」
えらいことをしでかしてくれたに頭を抱えるアーサーの足元では、フェリシアーノが元気に泣き喚いていた。
「うわぁぁあん!菊までやられちゃったよぉぉおおお!!」
「菊!お前は強い子ある!しっかりするよろし!!」
王も傍らに跪いて必死に呼びかけていた。
普段は何だかんだ言っているが、やはり弟分を放ってはおけないらしい。
「う……っ」
わずかに菊が反応した。
荒く浅い息を繰り返しながら、震える手を持ち上げる。
王がそれを強く握った。
「菊!!」
「誰か……お願いします……」
「わかったある!お前の仇は我が取る!!」
さすが兄といったところなのか、言葉半ばで菊の言いたいことを理解したようで、闘志をみなぎらせて立ち上がる。
そうしてに向っていった彼の背後でまた呻き声。
「誰か……っ」
菊は虫の息で、それでも言った。
「お醤油とワサビ持ってきてください……!」
さすが日本人。マグロにかける情熱は測り知れないものがある。
アーサーはそんな場合でもないのに、妙に感心してしまったのだった。
魔王&侍VSヒロインでした。
ヒロインが反則技使いまくりでスミマセンこれが彼女の本性です。
本当にAKYの言葉を否定できませんね。(苦笑)
次回は仙人&ガチムキVSとヒロインです。よろしければ引き続きどうぞ〜。
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